迷宮金魚

□ 破婚の条件 溺愛の理由 番外編 □

破婚の条件 溺愛の理由 2

 
 それから数日後。ティアとルシアーノは以前に休暇に訪れた別荘にいた。
 先に目を覚ましたのはティアだった。昨晩は情熱のままに求め合ってしまったから、まだ少し眠い。
 だが、すがすがしい空気を無駄にするのはもったいないような気がして、ティアは横で眠るルシアーノを揺さぶった。

「起きてください、ルシアーノ様。朝食前に散歩に行きましょう」

 以前にこの別荘を訪れた時には、ずっと彼に遠慮していたのだからティアの方から誘いをかけるというのはたいそうな進歩だ。
 だが、眠そうなルシアーノはティアの手を振り払うとまた目を閉じてしまう。

「起きてください。こんなに起きられないのでは、緊急事態には対応できませんよ?」

 軍人なのだから、いつでもどこでもすっきり起床できるものと思っていたのに、どうやらそういうわけでもないらしい。

(でも、あちらにいる時は忙しいものね)

 日頃彼はとても忙しくしているから、たまの休暇の時くらいはのんびりとしていたいのだろう。ティアも「のんびりしたらいい」と言ったのだから、これ以上はそっとしてあげた方がよさそうだ。散歩なら一人で行けばすむ話だ。

 眠いところを揺さぶってしまって悪いことをしてしまったと反省したティアは、そっとベッドを抜け出ようとした。

 だが、後ろから絡みついてきた腕に阻まれてベッドに引き戻されてしまう。

「起きてらしたのですか?」

「最初に揺すられた時に、すぐに目が覚めた――そうでなくては、緊急事態には対応できないだろう?」

 背後からティアを抱きしめながら、くすくすと彼は笑う。憤慨したティアは、手足をばたばたとさせたけれど、そんなの何の抵抗にもならなかった。
 巧みに手足を搦め取られて、彼の腕の中に閉じ込められてしまう。

「……もうっ」

「悪かった。朝食前にそのあたりを少し歩くのもいいな。すぐに出かけようか」

 背後から顔を寄せてきた彼が、頬にキスをしてくれる。そうしてようやく解放されたティアは、急いで支度をするために自分の部屋へと駆け込んだ。

「女性の身支度には時間がかかるのが基本と聞いていたんだが、ティアはいつも早いな」
「ルシアーノ様をお待たせするわけにはいかないでしょう? だから大急ぎで着替えたんです」

 人目を気にしなければいけないような場所でもないから、ティアの身支度はいたって簡単だった。洗面をすませたらメイドを呼んでコルセットを締めるのだけ手伝ってもらい、髪は簡単な形にまとめただけだ。

 こてをあてなくても自然なカーブを描いてくれる髪質に恵まれたこともあって、他の女性と比較したら身支度にかかる時間は少しだけ短縮できているのかもしれない。
 彼の方もラウンジスーツでいたって気楽な装いだ。手を繋いで朝露に濡れる草花の間を歩いていくのは、とてもすがすがしい気分だった。

「前に来た時に、修道院の近くのお店で昼食を頂いたでしょう? あのお店にもう一度行きたいです」

 前回訪れた時に肉詰めのパイを選んだのだが、今までで食べた中で一番おいしかったと思う。屋敷に帰ってから何度か料理人に頼んで作ってもらったけれど、あの店の方がおいしかった。

 今度行く機会があったら、コツを聞いてみようと思ったのだ。あの頃は、ルシアーノともう一度ここを訪れるようなことがあるとは思っていなかったけれど。

「朝食を食べたら、すぐに出ようか。準備はさせておく」
「ありがとうございます」
「ティアが楽しんでくれるなら、それでいい」

 足を止めたかと思ったら、不意打ちでキスを奪われる。まったく予想していなかったティアが、抗議の声を上げると、愉快そうに笑った彼はもう一度ティアの手を引いて歩き始めた。

 ◇◇◇
 
 澄んだ空気の中で身体を動かすと、より空腹を感じやすくなるのかもしれない。別荘にいる料理人が作ってくれた食事をぺろりとたいらげた後だというのに、修道院についた時には、ティアは胃が空になったのを感じていた。

 ここにある修道院はさほど大きくないのだが、祈りを捧げることができるよう昼間の間教会は開放されている。
 近くの店に馬を預け、二人はまず修道院に足を運んだ。教会の脇は、修道院で作られた果実酒やジャムなどを売るための場所となっている。

「ルシアーノ様、ジャムを買っていただけませんか」

 ティアはルシアーノの袖を引いた。料金は、修道院の建物や教会の修繕費用等にあてられることになっている。前回訪れた時、ルシアーノは祈りを捧げる前に献金箱にいくらか入れていたが、ここで買い物はしなかった。

 前回来た時もジャムは気になっていたけれど、あの時は欲しいとは言えなかったのだ。

「ジャム?」
「お茶の時間に、スコーンにつけたらどうでしょう?」
「ああ、そうだな。先に祈りを捧げてから買って帰ろう」
「ありがとうございます」

 屋敷の料理人が作ってくれるジャムに不満があるわけではないが、いつもと違う味も楽しいだろう。

 献金箱に献金を入れ、そろって膝をついて祈りを捧げる。昨年は何を願ったのだろう――今となっては思い出すこともできなかったが、少なくとも昨年よりは幸せなのだと思った。

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電子書籍 2016年5月25日配信開始 
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    破婚の条件 溺愛の理由 1      破婚の条件 溺愛の理由 3 
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Date:2015/07/26
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