迷宮金魚

□ 破婚の条件 溺愛の理由 番外編 □

破婚の条件 溺愛の理由 3

 
 祈りを捧げてから、先ほどの場所へと戻る。並べられた瓶の前で目移りしているティアに、ルシアーノはあきれたような声をかけた。

「そんなに悩む必要はないのに」
「こっちはリンゴ。こっちはキイチゴ……悩みますよ、これは」
「両方買えばいい」

 あっさりルシアーノは言ってくれるが、それでもティアは悩んでしまう。生まれ持った性質というのはなかなか変わらないようで、買い物をする時はいつも悩んでしまうのだ。

(リンゴのジャムと、キイチゴのジャムと。両方は贅沢な気がするのよ……)

 真剣な顔をして悩んでいるティアに、店番を担当している修道士が微笑ましそうな視線を向けてくる。

「悩んでいるところ悪いんだがな、その隣は蜂蜜の瓶だぞ」
「我々が飼っている蜂の蜂蜜ですよ」
「それを聞いたら……ますます悩んでしまいますっ……どうしましょう」

 修道士がスプーンですくって見せてくれた蜂蜜は、つやつやとしていておいしそうだ。トーストに塗ってもいいし、パンケーキにたっぷり塗るのもいい。料理人に頼んだらケーキも作ってもらえるだろう。

「だから、全部買えばいいのに。今日明日で食べなければならないようなものでもないだろう。別荘にいる間に食べきらなかったら、持って帰ればすむ話だ」
「それはそうですけど」

 財布の中身を気にしないで買い物をすることができるという状況にはまだ慣れない。うんうんとティアが悩んでいる横で、彼は全てのジャムを一種類ずつに蜂蜜も注文すると、さらにその横にある真っ赤な果実酒を指さした。

「その果実酒を二本、いただこうか」

 買い過ぎだとティアは慌ててルシアーノの袖を引っ張るが、彼は気にした様子もなかった。丁寧に修道士に礼を述べ、買い求めた品々を受け取る。
 大股に馬を預けた店の方に向かう彼の後から、ティアは小走りについていく。

「果実酒まで買うとは思いませんでした」
「土産も必要だろう。従姉妹殿にも」
「……あ、そうですね」

 観光をするのだとしばらくの間ルシアーノの屋敷に滞在していた彼の従姉妹は、二人の勧めもあって本格的にこちらに移り住むことになった。

 二人の邪魔をしたくないと言っていたのだが、同じ敷地の中には別邸もある。そちらを彼女に使ってもらうことで合意が取れ、家財道具を整理したり、荷物をまとめたりするために一度帰ったのだ。

 二人が別荘から自宅に戻る頃に彼女も戻って来るだろう。たしかに、彼女への土産を忘れていたのはティアの失敗だ。

「もう一本はどうなさるのですか?」
「こちらはアゼムール伯爵夫人に」
「まあ、モニカにまで……ありがとうございます」

 ぽんぽん物を言うモニカのことを、彼は若干苦手にしている気配もあるのだが、きちんと考えてくれているらしい。それだけで、ティアも嬉しくなる。

「アゼムール伯爵には、近くのワイナリーのワインを贈る」
「はい」

 伯爵はルシアーノの上司でもある。妻のモニカにだけ土産物というわけにもいかないから、それもまた当然の選択だった。

 ◇◇◇
 
 ティアが気にしていた肉詰めのパイも堪能して、別荘に戻った頃には午後のお茶を楽しむ時間になっていた。

「……帰る頃には太っていそうですね」

 馬を下りたとたん、胃がきゅるっと音を立ててティアは顔を赤らめた。朝食も堪能したし、昼食もけっこうな量をいただいた。それなのに、夕食までもちそうもない。

「乗馬をして、たくさん身体を動かしたんだから問題ない。ジャムは料理人に渡しておこう」
「お願いします」

 いくら運動をしたと言っても、こんなに食べていたら帰宅する頃には着てきた服が入らなくなっているかもしれない。そんな不安を覚えながら、ティアが着替えをすませた時には、お茶の支度の用意もほぼ終わりになろうとしていた。

 スコーンとケーキが出され、先ほど買い求めてきたジャムのうちキイチゴのジャムがさっそく封を開けて出されている。

 ティーセットは揃えられているが、使用人の姿はない。砂時計がそろそろ飲み頃であることを告げている。他の人を入れたくないということであろうと解釈したティアがティーポットを手に取ろうとすると、ルシアーノに手で制された。

 眉間に皺を寄せて真剣な表情になった彼は、丁寧に二人分のカップに紅茶を注いでいく。
 目の前に置かれたカップからは、ふわりといい香りが漂ってきた。ティアの目が、焼き立てのスコーンの方に向かう。

「そう言えば、君を連れていきたい場所があるんだ」
「どこですか?」

 前回この別荘に来た時にも、あちこち行ったと思っていたのに、まだ行っていない場所があるとは思ってもいなかった。
「ここから馬車で一日行ったところにヴルフェという村がある。湖があって、とても景色がいいんだ。一泊しないといけないから、その準備は必要だが」
「素敵ですね。いつ出かけますか?」
「君さえよければ明日にでも」

 スコーンを大皿から自分の皿へと移動させて、ティアはにこりとした。ここでのんびりしているのも悪くないし、何もしなくてもルシアーノと一緒なら楽しいのだが、二人で出かけるのも楽しい。

 一泊泊まるというのなら、荷物を詰めなければならない。上に羽織るものは必要だろうか。そのあたりは、後で別荘にいる使用人と相談しようと決めた。 
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電子書籍 2016年5月25日配信開始 
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    破婚の条件 溺愛の理由 2      破婚の条件 溺愛の理由 4 
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Date:2015/07/28
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