迷宮金魚

□ 破婚の条件 溺愛の理由 番外編 □

破婚の条件 溺愛の理由 7

 
 翌朝は、二人そろって湖の中央にある島に渡るために早く起き出した。
 
 夕方までそこで過ごし、夕方向こうを発って夜はもう一度この宿に宿泊予定だ。
 
 ティアが選んだのは、小花模様を散らした布地で仕立てた外出着だった。まだ暑いくらいの時期だけれど、湖の上は冷えるかもしれないとショールも持った。

「お待たせしました」

 ルシアーノの方もラウンジスーツで、いつもよりはくつろいだ雰囲気だ。白い帽子をかぶったティアの方へと身をかがめて、額にキスをしてくれる。

「そろそろ行こう。船が出てしまう」

 今日向かう島は、無人島なのだが、ティア達のような観光客をあてこんで、近隣の住民が土産物屋やカフェなどを出しているらしい。宿に頼めば弁当を用意してもらえるのだが、ルシアーノはカフェで昼食をとることを選択した。

 宿のすぐ前に設けられた船着き場へと歩きながら、ティアは彼の顔を見上げた。

「何があるのですか?」
「それは行ってみてのお楽しみだな」
「……それ、昨日もおっしゃっていましたね」

 昨日、宿に戻った時、せっかくだからとガイドブックを買おうとしたティアを、ルシアーノは事前にとめたのだ。おかげで、今日向かう島に何があるのかもわからない。

「先に知ってしまったら、楽しみが半減するからな。ほら、足下に気をつけて」

 船への渡し板はあるのだが、足下が少々不安定だ。ルシアーノの手を借りて船に乗り込むと、そこには同じように島に向かうであろう人がたくさん乗り込んでいた。

 たくさんの人の間をかき分け、ルシアーノは船の奥の方へと向かう。そこには予約席があって、彼は手回しよくそこを昨日のうちに確保していたようでそこにティアを座らせてくれる。

 こういう時の彼の気配りには、感心させられてしまう。いつの間に彼がここを手配していたのか、まったく気づいていなかった。

 他の乗客が屋根すらない甲板に並べられた硬いベンチに腰をかけているのにたいし、こちらは上に日よけがかけられている。湖の上を流れてくる涼しい風を堪能しながらも日光にさらされる心配はない。

 他に予約席をとっている人はないようで、六脚の椅子が用意されている空間を、二人きりで使うことになった。

「……よく考えたら、私、船に乗るのは初めてです」

 ゆっくりと船が動き出す。初めての経験にティアは目を丸くして、周囲の景色を見回していた。それから、ちらりと夫の方に目をやり、それからすぐに目をそらす。

「何をしているんだ?」

 笑いながら、ルシアーノがたずねてきた。

「いえ、何でもないんです……気にしないでください」
「気にするなと言われると、余計に気になるな」
「……だって、言ったら絶対に笑います。だから、言いません」

 ティアがついっと視線をそらせると、ルシアーノが彼女の方へ身を寄せてくる。それから彼は耳元でささやいた。

「笑わないと約束する」
「本当ですか?」

 彼が約束すると言ってくれたのなら、約束はきちんと守ってくれるだろう。ティアは彼の方へ向き直ると小さな声で言った。

「ルシアーノ様の乗っていたお船も、こんな感じなのかなって思っただけです」

 そう思ったのは、一瞬だけ。その考えをすぐにティア自ら打ち消したのだ。だって、湖をすぐ近くにある島まで行くだけの船と、海の向こうまで戦争をしに行く船が同じというはずがない。

 案の定、彼は口元をひくつかせた。

(笑わないっておっしゃったのに)

 そう思ったけれど、ティアの方もその考えを口にすることはなかった。だが、黙り込んで湖面を見つめていたから、彼女の考えていることなんて絶対にお見通しだ。

「悪かった――そうだな、たしかにいろいろと違うと思う。そう言えば、俺の乗っている船を見せたことはなかったな」
「ばたばたしていましたものね」

 彼が帰国後しばらくの間は、ろくに会話もしない関係だった。きちんと向き合って話をするようになってすぐに、今度は家の問題が発生して――。たしかに、ばたばたとしていたと言えば、ばたばたしていたのだ。

「軍の機密もあるから、乗船させることはできないが、外から見ることならできる」
「……楽しみです」

 こうやって、一つ一つ楽しみが増えていくというのはなんて幸せなことなのだろう。すっかり機嫌をなおしたティアは、彼の方へと少しだけ身を寄せる。

 島に到着してからあとのことも楽しみだった。
 やがて船が到着したのは、ごちゃごちゃとした岩場の間に作られた船着き場だった。この島に住んでいる人はいないという話だったが、あちこちに建物が散らばっている。

 軽食を出してくれるカフェや、土産物を売っている店だ。まだ昼食の時間には早いと、ルシアーノはティアを散策へと誘った。

「湖の色が向こう側とこちらで違うんだ」
「あら、本当……どうして、湖の景色が違うのでしょうか」

 こんな景色を見るのは初めてだ。ティアは水面を覗き込んで目を見張る。湖の色がところによってまったく違う。どうしてこんな風に見えるのだろう。

「さあ、それはなぜだろうな――島の反対側に行ってみよう。あちらの方はまた色が違うんだ」

 ティアは健脚だから島の隅から隅まで歩くと言われても問題ない。ルシアーノについて、島の反対側へと足を向けたのだった。 
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    破婚の条件 溺愛の理由 6      破婚の条件 溺愛の理由 8 
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Date:2015/08/04
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