迷宮金魚

□ 破婚の条件 溺愛の理由 番外編 □

破婚の条件 溺愛の理由 8

 
 島にある飲食店は、湖でとれた魚やヴルフェで収穫された野菜を中心としたものだった。薫り高いハーブ類をつめて焼いた魚と煮込み野菜メインに昼食をとる。

「このお料理、屋敷に帰ってから再現できると思いますか?」

 とてもおいしいのだが、なじみのないハーブが使われているような気がする。

 使われている香草の種類をすべて判別できたら、家で食事会をする時に出すことができるのに。屋敷の料理人に頼んだら、同じような味を再現できるだろうか。

「基本的なレシピなら教えてもらえるんじゃないか? 隠し味までは無理だろうが」

 通りがかった給仕にたずねると、そのまま奥へと引っ込んでしまう。出てきた時には、一通の封筒を手にしていて、それを恭しくティアへと差し出してくれた。

 ルシアーノの言葉通り、そこにはレシピが記されていた――が、それだけではないような気がする。どうやら足りない分は、屋敷の料理人に任せるしかなさそうだ。ティアも料理はできるのだが、あくまでも「料理人がいない時に、とりあえず食事を用意する」のがせいぜいなのである。同じ味が再現できているかどうかの確認は、ルシアーノの舌に任せておけばいい。

「さて、行こうか」

 帰りの船には、まだ時間があるから散策を続ける予定だ。ティア達と同じように食事をすませた人達が、ぞろぞろと同じ方に歩いていくのに気がついた。

「……何を見せてくださるんですか?」

 島のあちこちの景色を見せてもらったけれど、さらに新しい景色を見せてもらえるのかと思うとわくわくする。

「ん……? ああ、まだもう少し歩いてもらわないといけない」
「それは問題ありませんけれど」

 午前中も島のあちこちを歩き回ったが、一度休憩時間を挟んだことで、だいぶ元気を取り戻している。もう一周歩き回ろうと言われても、ついていくことができそうだ。

(何を見せてくださるのかしら)

 こんな風にのんびりと時間を過ごすのは滅多にないことだ。領主としての仕事は、代理人にほぼ任せているルシアーノだが、まだ軍から退くつもりはないようで海軍省にこもることも多い。軍に在籍するのは箔をつけるためであり、ある程度のところで辞めていく人達の中では珍しいことだろう。

 もっとも上層部に行くためには親友の夫のように長い間軍に身を置く必要があるけれど――。

(そう言えば、聞いたことはなかったかも。ルシアーノ様が海軍省にお出かけになるのは当たり前のことだと思っていたし)

 ティアに船を見せてくれる――ただし、外側からだけ――と言っていたから、まだ退役するつもりはなさそうなのだが、いつまで、と聞いてしまっていいのだろうか。

「ルシアーノ――」

 だが、ティアの呼びかけは、途中で中断してしまった。

「な……なんですか、これは」

 ティアの視線の先には、大きな穴があいていた。穴の深さはかなりのものだ――おそらくティアの身長の三倍くらいはありそうだ。向こう側の壁面にはいくつもの横穴があいている。

「昔、ここに住んでいた人間がいたらしいぞ。向こう側の横穴は住居。それから手前の広場のようになっているところは、火をたいて儀式を行ったところらしい」
「……まあ。こんなところに住めるのですか?」
「居心地よくはないと思うがな。ほら、そこに階段が作られているから下に行ってみよう」

 とても急なのだが、一応手すりのついた階段がもうけられていた。その階段を使って下に降りてみる。底についたところで上を見上げてみると、思っていたよりも穴が深いようだった。

(やっぱり、こんなところで生活するのは難しいと思うわ)

 横穴の奥の方は意外と広くなっているようだ。出入りは禁止されていないようで、中にはこわごわと穴の奥の方までのぞきに行っている人もいる。

「この穴には、ドラゴンが住んでいたという伝説もあるんだ。だから、ドラゴンに守ってもらおうと、昔の人はここに住んだのかもしれないな」
「どこにドラゴンが住んでいたのですか?」
「あの一番大きな横穴のところだそうだ。行ってみようか」

 二人が穴に近づくと、ちょうと入れ替わりに人が出てきたところだった。ティアはこわごわと奥をのぞき込む。本来なら穴の奥は真っ暗になっているのだろうが、壁際にランプがとりつけられていて、思っていたより明るかった。

「あら、コインが積まれているのはなぜでしょう?」
「ドラゴンに願いをかけるんだそうだ。コインを供えると願いが叶う――」
「言ってくださったら、コインを用意しておきましたのに」

 ティアの財布の中には、紙幣しか入っていなかった。事前に知っていれば、コインを供えられたのにと残念に思う。

「……ほら」

 ティアの手のひらにコインが落とされる。上目遣いに見上げると、彼はにやりとして自分の手のひらに落としたもう一枚のコインを見せる。

 二人並んでコインの山の一番上にコインを置く。それから目を閉じて、心の中で願いをかける。

「ルシアーノ様は、何を願ったのですか?」
「――ティアは?」
「私は……内緒です」

 小さく笑いながら言うと、彼の方も「俺も内緒にしておこう」と返してきたのだった。
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えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ(ジュエル文庫)
電子書籍 2016年5月25日配信開始 
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    破婚の条件 溺愛の理由 7      破婚の条件 溺愛の理由 9 
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Date:2015/08/04
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