迷宮金魚

□ 蜜恋エンゲージ 一途な公爵の甘い誘惑 番外編 □

蜜恋エンゲージ 一途な公爵の甘い誘惑 番外編2

 
 イリーナが抵抗をやめたのをいいことに、マティアスはイリーナの手を唇へと持っていく。親指の付け根にキスされて、そこから甘い感覚が広がってきて、イリーナはふっと息をついた。

 目を閉じると、彼の舌をまざまざと感じてしまう。手のひらをざらざらとした舌が舐めていく。それから、あやすように舌を這わせた場所にもう一度キスされた。

 手のひらをもう一度舌がかすめていって、イリーナは小さく喘ぐ。これから先を期待していることに気がついて、急に鼓動が跳ね上がった。

(このまま続けるのは、よくないわ……!)

 使用人達は、マティアスとイリーナの関係を完全に知り尽くしているだろう。その証拠に、彼らは余計なことは何一つ言わない。
 けれど、それと昼間から居間で淫らな行為に溺れるのは絶対に違う。彼の唇が送り込んでくる甘美な感覚を手放すのは惜しかったけれど、意志の力を振り絞ってイリーナは彼の手を振り払おうとした。

「……あ、あら……?」

 一体、何がどうなったというのだろう。何があったのかよくわからないうちに、上下が入れ替わってしまっている。

 ソファの座面に背中を押しつけ、天井を見上げる形になってイリーナは目を瞬かせた。こちらを見下ろすマティアスはにやりとして、イリーナの肩をソファに押しつける。

「……マティアス」

 彼の名を呼ぶ声が少しかすれているのを自覚した。
 自分の声にどこか期待しているような色が混ざっているのもわかるから、顔がますます熱くなってきてしまう。耳まで熱くなっているということは、頬まで真っ赤になっているはずだ。

「今、俺が何を考えているのかわかる?」

 甘苦しい感覚に身体を縛られたように感じながら、イリーナは首を横に振った。彼にこうやって見つめられたら、イリーナの意志なんてどこかに消え去ってしまう。

 マティアスともっと触れ合いたい――そんな欲求が心の奥から沸き起こってきて、無意識のうちに唇を舐めた。

「本当にわからないかな。イリーナはそんなに鈍くないと思ってたんだけど」

 そう言ったマティアスの顔が近づいてくる。互いの息が混ざり合うほど近くまで顔を寄せておいて、彼はそこで止まった。身近に彼の唇を感じるのに、そこから先は何もされない。

「……ふっ」

 過去に何度も唇を触れ合わせたキスの感覚を思い出す。触れられていないのに、唇がじんじんしてくるように感じられて、思わず小さく息をついた。

 こちらを見下ろすマティアスが、にやりとしたのを気配で悟る。ソファに横倒しになった体勢は不安定だからか、ますます心臓がどきどきとし始めてきた。

「……イヤ」

 彼は、ただ、ソファにイリーナを押し倒して見つめているだけ。それなのに、身体中のいたるところがちりちりとし始めてきたような気がする。

 心臓はやかましく音を立てはじめるし、どうしたらいいのかわからない。上にいるマティアスを押しのけようとしたけれど、彼は簡単にイリーナの抵抗を封じ込めてしまった。

「イヤって何が?」
「……知らない」

 こんな風にドキドキさせるなんて、ズルイ。上手い言葉が見つからなくて、イリーナが身じろぎすると、ますます強くソファに押しつけられた。

 落ち着きなく、イリーナはもう一度唇を舐める。喉がからからになったようで、呼吸さえままならない。

 くすりと笑ったマティアスは、イリーナの肩を押さえつけていた手を、喉の方へと滑らせてきた。

「あっ……んんっ!」

 不意にそんな風に触れられて、イリーナの唇から思ってもなかったほど淫らな声が上がった。身を捩るけれど、色づいた声が上がってしまった方にはるかに動揺して、イリーナは足をばたばたとさせた。

 なんとか彼の腕から逃れようと身をくねらせるが、彼の腕から逃げ出すことはできなかった。もう一度喉に指先が這って、イリーナの肩が跳ね上がる。

「そんなにびくびくして、どうかした?」
「やっ……ん、んんんんっ」

 イリーナの反応を楽しんでいるかのように、何度も何度も指は薄い皮膚を撫でていった。無防備な場所に指で触れられ、腰のあたりがじんじんとし始める。

 マティアスを押しのけようとしたが、力の入らない手はただ彼にすがりついただけだった。

 触れるか触れないかのところで止められていた唇が、イリーナの唇を覆う。促されてもいないのに、イリーナの方から唇を開いた。からかうように、上唇と下唇の間を、マティアスの舌がさ迷う。

 我慢できなくなって、イリーナの方から舌を出し、彼の舌を搦め捕ろうとした。

「やっ……だめっ……!」

 だが、マティアスは唇そのものを離してしまい、慌てたイリーナはマティアスの服を掴んで引き戻す。彼がにやりとするのがわかって、自分が何をしたのかに思い至り、真っ赤になった。

「もっと、キスする?」
「……して」

 マティアスの誘いに、恥じらって睫を震わせる。自分の口からキスしてほしいという言葉が出るなんて、考えたこともなかった。



※サイト掲載のこの短編は、2015年11月発売乙蜜ミルキィ文庫の関連作品です。 ■初出 乙蜜ミルキィ文庫「蜜恋エンゲージ 一途な公爵の甘い誘惑」(リブレ出版刊)
2017年2月1日発売
えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ(ジュエル文庫)
電子書籍 2016年5月25日配信開始 
征服王の激愛 ~人質姫は蜜夜に喘ぐ~(TLスイートノベル)

    蜜恋エンゲージ 一途な公爵の甘い誘惑 番外編1      蜜恋エンゲージ 一途な公爵の甘い誘惑 番外編3 
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Date:2015/11/18
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