迷宮金魚

□ 熱愛皇帝の甘い鎖 番外編 □

熱愛皇帝の甘い鎖 番外編(3)

 
 翌朝、オリアーナは思いきり寝坊した。明け方までいろいろな意味で眠らせてもらえなかったのだからしかたない。

 朝食兼昼食を食べ終えた後、侍女達が着替えを持ってきてくれる。身分を隠して視察に出るエルヴィンに同行させてもらう時に着るのはいつも同じ服だ。

 見事な輝きを持つ金の髪も、今日は首の後ろで一本に束ねているだけ。

「遅かったな」
「ごめんなさい、急いだつもりだったのですが」

 今日はエルヴィンの馬に一緒に乗せてもらう。今までにも何度か経験していたけれど、公務で出かける時とは違って、直接外の空気を感じることができるからわくわくする。

 エルヴィンの肩に頭をもたせかけたら、よしよしと頭を撫でられた。子供扱いされているような気もするけれど、彼にされるのなら嫌ではなく嬉しいと想ってしまうのだから現金なものだ。

 馬を預けて、港に入るとそこはたくさんの人で溢れていた。

「エルヴィン様、見てください! お魚があんなにたくさん!」

 木箱から溢れてしまいそうな数の魚が並べられている。ここに並んでいるのは、今朝採れた魚だ。

 昨日採った魚は昨夜のうちにさばかれて、酢に漬け込んだり干物にしたりとさまざまな調理法で並べられている。

「……どうして、こんなにたくさんの人が集まっているのかしら」

 商業港の方には何度か連れて行ってもらったことがあるが、漁港に来るのは初めてだ。こんなにたくさんの人がいるなんて想像もしていなかった。

「今日は、ここで食べる分にはどの魚もただだからな――ほら、これを食え」

 紙袋いっぱいにエルヴィンが買い求めたのは、指の大きさくらいの魚をフライにしたものだった。揚げたてのところに、塩と酢で味をつけてある。

「あ、あつっ……熱い、です」

 揚げたての魚はまだ熱々だった。口の中ではふはふしながら食べるのは、行儀が悪い気がする。普段城での食事の時には、絶対こんなことはしない――こうして彼と二人で出歩いている時だけの特別だ。

「今年は、いつもにも増して人が多いようだな――何かあったか。昨年は喪中だったから、ここの祭りも縮小していたしな」

 昨年は、エルヴィンの父である前皇帝が亡くなった後一年の喪に服す期間にあたっていた。昨年はこの祭りも、例年の半分の規模での開催になったそうだ。

「……ランベルト王国の料理を出す店が増えたか。今まではあまり見られなかったような気がするんだが」
「これからは、もう少し仲良くしていこうというお話になったのでしょう?」
「まあな。だからこそ、ランベルト王国の料理を出す店が増えたということなんだろうが」

 過去の因縁を完全に消し去るのは難しいかもしれないけれど、今後双方が少しずつ歩み寄っていくことはできるだろうし、双方そうしていきたいという点では意見の一致を見ている。

「よかったですね」

 オリアーナはエルヴィンの腕に自分の腕を絡めて、彼の顔を見上げた。彼と再会してから、あまりにもいろいろなことが一度に起こったから、途中で頭がついてこなくなったこともあった。

 けれど、今は彼の隣にいることができるのがとても幸せだと思う。自身を失ってしまうこともしばしばあるけれど。

「オリアーナの言うとおりだな」

 不意にエルヴィンが身を屈めてくる。人目もはばからずに唇を重ねられて、オリアーナは赤面した。こういう不意打ちを仕掛けてくるから彼はずるいのだ。

 とてもではないけれどオリアーナには、対抗できないことだってわかっているくせに。

「――来年も、再来年も、その次の年も――エルヴィン様と一緒にここに来ることができたらいいと思います。その時には、もっといろいろな国の品が並んでいるといいですね」

「そうだな。だが、他にもいろいろと一緒に行かなければならないところがあるんだ。油断してはいられないな」

 今度はエルヴィンが額にキスを落とす。来年も、再来年もその次の年も――彼と一緒にいることができれば、それでいい。

「……エルヴィン様、それは、あの」

 手を取られるのはいいのだが、手のひらを愛撫するように指を動かされるのはとても弱い。昨日、庭園の南端に行った時のことも思い出してオリアーナは肩を揺らした。

 そんな風にされたら、身体の奥の方が熱くなってきてしまう。オリアーナの身体をそう作り替えたのは彼だし、わかっていてやっているのだから質が悪いとも思う。

「……続きは、城に帰ってから、な」

 そんなオリアーナの気持を見透かしているかのように、耳元で彼がささやく。オリアーナは真っ赤になった。

2017年7月1日発売
パーフェクト愛され人生確定…ですか? 転生したらメロ甘陛下のおさな妻(ジュエル文庫)
電子書籍 2016年5月25日配信開始 
征服王の激愛 ~人質姫は蜜夜に喘ぐ~(TLスイートノベル)

    熱愛皇帝の甘い鎖 番外編(2)      熱愛皇帝の甘い鎖 番外編(4) 
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Date:2016/09/03
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