迷宮金魚

□ えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ! 試し読み □

えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ!試し読み(3)

 
 ヴィアナの住んでいる村から、王城のあるルーアンまでは馬車で十日ほどの道のりだ。

チェルテア王国は国の面積も広く、栄えている国だ。貴族の数も多く、そんな中で一応貴族の家系とはいえ、ヴィアナは貴族としては一番下の身分といってもいい。

 ヴィアナの家は一応領主なのだが、父の持つ領地はとても小さなものだ。領地内にあるのは、小さな村が三つ。領民の数は全部合わせてもたぶん百人にはならないだろう。

 父の身分だとお城に招かれることもない。だから、ヴィアナがルーアンに行く機会なんてあるはずもなくて、今回が初めてのルーアン行きだ。

(こんなにいっぱい馬車に乗ったことはないから、お尻が痛い……)

 城から回されてきたのは立派な馬車だったけれど、座りっぱなしだからあちこち痛い。

 最初は新鮮だった窓の外を流れる景色も、三日もしたら飽きてしまった。明日にはルーアンに着くからようやく馬車から降りることができる。

「明日から、ちゃんとやっていけるのかしら」

 誰も聞いていないのをいいことに、ヴィアナははぁっと大きなため息をついた。

 十回目のお見合いがだめになってしまって、半分やけで出てきてしまったけれど、本当にこれで大丈夫なんだろうか。

 自分が田舎者なのはわかっているし、田舎者なだけにお城の洗練された人達の間に入っていって上手くやっていけるとは思えない。

 とはいえ、いつまでこうしていてもしかたないし、覚悟を決めるしかないのだ。きっと。

 今日の宿の前で馬車が停まって、降りたヴィアナは建物を見上げる。百人くらいは泊まれそうな立派な宿だ。

「――ここが、今夜泊まるところね……なんだか、今日もすごいお宿」

 ここに至るまでの道中も、ものすごく贅沢な旅だった。

 ヴィアナのために毎回一番いい部屋を取ってくれて、部屋付き人がヴィアナの面倒を見てくれる。こんな風に世話してくれるなんて、なんていたれりつくせりなんだろう。

「――ヴィアナ、久しぶりだね」
「バートさん!」

 不意に声をかけてきた人の姿に、ヴィアナは目をぱちぱちとさせた。

 彼は、以前ヴィアナの家の近くに住んでいた人だった。当時、二十代に入ったか入らないかくらいだから、あれから十年たった今では三十歳前後というところだろうか。

「お元気でした? バートさんとブライアスが、引っ越しして……もう、十年くらいですよね」

 久しぶりに懐かしい顔に会って、ヴィアナの気分は一気に上昇した。

 あの頃はよくわかっていなかったけれど、ブライアスは、おそらく貴族の家系なのだろう――それも、ヴィアナのような小さな領主の家ではなくて、もっと身分が高い家の出だ。

 その証拠に隣の家には、ブライアスの他、バートと「先生」と呼ばれる家庭教師のおじさん。それにその奥さんだけではなく、家事一般を担当している使用人達がいた。

 その中でも、ブライアスの側にいることが多かったバートは、ヴィアナ達にとっても親しい相手だった。久しぶりに会えば、懐かしさが押し寄せてくる。

「そうだね、懐かしいね」

 穏やかなバートの微笑みは、あの頃と変わらない。

(ブライアス、元気にしてるかしら)

 急にばたばたと出て行ってしまったブライアスとは、あれ以来顔を合わせる機会もなかった。彼から手紙が来たことなんて一度もなかったし、出す先がわからないのだから、こちらから手紙を書けるはずもなかった。

「どうして、バートさんがここにいるんですか?」
「君を迎えに来たんだ」

 迎えにってなぜ? ヴィアナの目が大きくなる。

「バートさんが、なぜ私を迎えに来たんですか? 今、お城で働いているんですか? ブライアスは元気?」

 矢継ぎ早に繰り出す質問にバートはにこにこしながら応えてくれた。

「うん、まあ――お城で働いていると言えば働いているかな。ブライアスはとても元気だよ。それと、明日、早朝に出発するから、朝になって困らないように準備しておいて」
「はい、よろしくお願いします」

 夕食を食べ、お風呂に入って、ベッドにごろりと横になった。

(ブライアス……懐かしい……)

 ブライアスは、幼い頃ヴィアナの家の隣に住んでいた男の子だった。たしか、四歳上だと言っていたからもう二十二になっている頃か。

 ある朝起きたらいなくなっていて、ヴィアナも弟妹も驚いたしわあわあ泣いた。

 彼がなぜ隣の家に住んでいたのかなんて詳しいことはヴィアナは知らない。なぜか、あの頃も今も、そこは聞いたらいけないと思っていた。

 ブライアスは、午前中は先生と一緒に真面目に勉強していたけれど、午後になったら庭に出てくることが多かった。そこでバートを相手に剣の稽古をしたり、ヴィアナの弟妹と一緒に走り回ったり。

 ヴィアナが弟や妹に昼寝をさせていたら、なぜか、彼も紛れ込んでいて、一緒に寝てしまうこともしばしばあった。

(本の読み聞かせをしていたら、いつの間にか紛れ込んでいたっけ)

 あの頃のことを思い出して、ヴィアナはくすりと笑う。

 四つ並んだ金色の頭に一つだけ混ざった黒い頭。

 それを見ながらヴィアナもこくこくと首を揺らしていたら、バートがヴィアナにも昼寝をするよう勧めてくれるのもいつものことだった。

 二人一緒にくるまった上掛けの中で、こっそり手を握りあって意味もなくくすくすと笑って――それだけなのに、なぜかどきどきした。

(……ルーアンに行ったら、会える……か……な)

 ふわりとあくびをして、ヴィアナは睡魔に身を任せる。彼との再会が何を意味するのか――この時のヴィアナは何も考えていなかった。

こちらは2017年2月1日発売【えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ!(ジュエル文庫)】の試し読みです。編集部の許可をいただいておりますが、途中までの公開となることをご了承ください。また、最終校正版ではないため、実際の書籍と多少異なるところもございます。

2017年2月1日発売
えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ(ジュエル文庫)
電子書籍 2016年5月25日配信開始 
征服王の激愛 ~人質姫は蜜夜に喘ぐ~(TLスイートノベル)

    えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ!試し読み(2)      えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ!試し読み(4) 
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Date:2017/02/03
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