迷宮金魚

□ えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ! 試し読み □

えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ!試し読み(8)

 
「あ、あぅ、ち、近い……か、ら……」

 赤くなった頬を、彼には見られたくない。

 真っ赤になった頬を隠すように首を振ったけれど、彼は顔にかかった髪をぱっとはねのけてしまった。さらに距離を詰めてきて、ヴィアナはじりじりとソファの隅に追い詰められる。

「ひゃあっ」

 変な声が上がったのは、伸びてきた彼の手が、ヴィアナ越しにソファの肘掛けを掴んだから。反対側は背もたれに阻まれて、また彼の腕の中に封じ込められる。

「あの、何か……」

 ひきつって、うわずった声を上げれば、彼の口角がむぅっと下がった。

(――あ)

 その表情に見覚えがあって、ヴィアナは目を瞬かせた。そう、よく子供の頃の彼はこんな顔をしていた。立派な大人になった今、彼がこんな表情を見せるなんて。

「……殿下?」
「その呼び方はやめろ。さっきからブライアスと呼べと言っている」
「そ、それはちょっと……どうかと思うの」

 つい、気安い口調になってしまって、慌てて手で口を押さえる。

 ヴィアナのそんな様子がおかしかったようで、彼がくすくすと笑った。

「ようやく、楽になったか」
「そういう、わけでは……あの、ええと」

 うろうろと視線をさ迷わせるも、この部屋にいるのはブライアスとヴィアナ二人だけ。

 おそらく大声を出せば誰か駆けつけてきてくれるだろうけれど、たぶん大声を出すような場面じゃない。

「教えてください、殿下」
「嫌だ」

 ヴィアナを腕の中に抱え込んだまま、彼はさらにぐいっとヴィアナの方に寄ってくる。そうして、にやりとしてから付け足した。

「名前で呼んだら、答えてやる――どうせ、聞きたいことが山ほどあるんだろ?」
「うー……」

 この人はずるい。

 うなったきり、ヴィアナはそこから先が続かなくなってしまった。

 ずるい、ずるい、ずるい――彼と密着してこんなにどきどきしているヴィアナの気持ちを完全に見抜いているのだろう。

「ブライアス――様」

 これが精一杯だ。王太子を呼び捨てにするなんて、できるはずがない。

 不満を隠そうとしなかったブライアスだったけれど、そこを妥協点としたようだ。

「まあ、いいか。それで、何が聞きたいんだ?」
「……私の隣に住んでいたのと、同じ人ですよね?」

 ヴィアナの言葉が思いがけなかったようで、彼の目が丸くなる。そんな表情もまた、ヴィアナにとっては懐かしいものだった。

 大人になっても、かつての面影というものはどうしても残るらしい。

 ラルフとおやつを取り合っていたり、末っ子のショーンを膝の上に乗せていたり。懐かしい彼の表情が次から次へとヴィアナの脳裏に浮かんだ。

「いや、だから、その……兄弟、とか、親戚、とか、赤の他人のそっくりさん、とか……」
「いくらなんでも、赤の他人のそっくりさんはないだろ」

 ソファの肘掛けに手を起き、半ばヴィアナにのしかかるような格好になっていた彼がくっくと笑う。

 それから、彼はヴィアナの顎に手をかけて自分の方へと顔をねじ曲げた。

「たしかに幼い頃、ヴィアナの隣の家に住んでいたよ。あの頃――俺を暗殺しようという動きがあったんだ」
「あ、暗殺!?」

 これはまたとんでもない言葉が出てきたものだ。ヴィアナが目を丸くすると、彼はふぅっとため息をついた。

「今でこそ比較的仲がいいが、元々俺の母親はブラントーム王国の出身だからな」
「……エミリーヌ様、ですね」

 エミリーヌ王妃が嫁いできたのは、今から二十五、六年前のことだ。当時、チェルテア王国とブラントーム王国の中は国境を巡ってたいそう仲が悪かった――らしい。

 らしいと伝聞系になっているのは、ヴィアナもそのあたりのことはさっぱりわからないからだ。大人達の話を聞いたり、学校の授業で習った範囲では、国境近辺の豊かで農作物が取れる土地を巡っての争いだったそうだ。

「そう。当時のブラントーム王――俺からすれば母方の祖父にあたる人だが――と、当時もう国王として即位していた父上の間で話がまとまり、母上が嫁いできた」

 半分ヴィアナを押し倒す体勢になったまま、彼はぽつぽつと話してくれた。

 当時、エミリーヌ王妃を迎えるには、国内の反対する勢力の力がとても大きかったこと。

 強引に輿入れしたものの、世継ぎが生まれなかったことから、エミリーヌ王妃を暗殺しようという動きがあったこと。

 結婚して三年目にようやく身籠もり――そして、ブライアスが生まれたこと。

「だが、今度は俺を排除しようという別の貴族達が動き始めた。五歳までの間に、六回は暗殺されかけたそうだ」
「……そんなに?」

 年に一回でも多いと思うのに、年に一回以上暗殺されかけたとは恐れ入る。
 
「それで父上と母上は俺を隠すことを思いついた。しばらくの間は国内を転々と移り住んであとをつけられないようにし、最終的に腰を落ち着けることになったのが、お前の両親の住んでいる土地だ」

 さほど高い身分というわけではないヴィアナの母親がエミリーヌ王妃の侍女になったのは、元敵国出身の王妃に仕えたがる貴族の娘は少なかったという理由からだ。王妃のお声掛かりで父との縁談がまとまったのだとか。

 両親は今でも幸せに暮らしているから、王妃の相手を見る目は間違っていなかったということだろう。

 ブライアスが隣家に引っ越してきた裏には、そんな事情があったのだという。今まで全然知らされていなかった事実に、ヴィアナはブライアスの下敷きになったまま何も言うことができなかった。

こちらは2017年2月1日発売【えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ!(ジュエル文庫)】の試し読みです。編集部の許可をいただいておりますが、途中までの公開となることをご了承ください。また、最終校正版ではないため、実際の書籍と多少異なるところもございます。

2017年2月1日発売
えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ(ジュエル文庫)
電子書籍 2016年5月25日配信開始 
征服王の激愛 ~人質姫は蜜夜に喘ぐ~(TLスイートノベル)

    えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ!試し読み(7)      えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ!試し読み(9) 
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Date:2017/02/08
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