迷宮金魚

□ えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ! 試し読み □

えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ!試し読み(12)

 
(……ちょっと、話しかけにくいな)

 ヴィアナと同じ年齢の少女達も何人か見かけたけれど、もう完全にグループができあがっている。

 しかたなく隅っこの席に一人で座って食べたけれど、王宮の料理はとてもおいしかった。

 パンに野菜のスープ、それにメインの魚のフライ。茹でた付け合わせの野菜は、王宮の菜園で取れたものなのだそうだ。

 急いで食事を終えて席を立つ。

(さっき聞いたら、そろそろ戻ってくるって言ったっけ。今日は枕元の本でいいんだろうけど、明日はどうしたらいいのか、忘れずに確認しなくちゃ)

 部屋に戻って、次はどうすべきなのかと考える。ブライアスが戻ってくる前に、寝室に行かなければ。でも、入りにくくて扉の前でもじもじしていたら、あっという間に時間が過ぎ去ってしまった。

「……あ」

 壁のベルがりんりんと鳴っている。ブライアスに呼び出されることになってしまって、慌てて扉を開いた。

「……あの」

 部屋の入口のところに立ったまま、そこから中に入ることができない。

(そうよね、それはよく考えたらそうなんだけど)

 だって、ヴィアナの仕事は、彼が眠りにつくまで側にいることだ。

 まさか服を着たまま寝るとは思っていなかったけれど、風呂上がりのブライアスはなぜか上半身裸のままだった。下半身にはきちんと寝間着のズボンを身に着けているけれど、ヴィアナには刺激が強すぎる。

「あのっ……あのっ……」

 まだ濡れていて、ぺたりとはりついた髪が、彼を今までとは違う雰囲気に見せている。それはまだいい――けれど、そこから先がいけない。

 上半身は何も着ていないから、よく鍛えられた腕だの、首の筋肉だの、服の上から思ってよりずっと厚い胸板だの――目のやり場に困る。

(見てはいけないのもわかってるんだけど……)

 ちらっと彼を見上げて、また視線を落とす。これから先、どうしたらいいんだろう。

 扉のところでもじもじしていたら、なんと彼の方からこちらに近寄ってきた。

「なっ、なっ――」

 心臓に悪い、心臓に悪すぎる――。

 耳まで一気に熱くなって、自分が自分でなくなったような気がする。

(こ、これじゃ仕事にならないじゃないの……)

 ぎゅっと目を閉じていたら、両耳の脇に彼が手をついて、腕の中に閉じ込められた気配がした。扉を背にしたまま逃げ場を失ってしまって、もっと強く目を閉じる。

「何をそんなに硬くなってるんだ?」

 わざと耳の近くに、ブライアスが唇を寄せる。

 ――ズルイ。

 そう言いたかったけれど、言葉にはならなかった。

 十年前、急にいなくなってしまった少年と再会した。たんなる貴族のおぼっちゃんだと思っていたら、もうすぐ王様になる人だと聞かされた。

 それだけでも、ヴィアナの方は精一杯。既に始まっている新しい仕事のことで頭はいっぱいなのに、彼はこうやってヴィアナを翻弄しようとする。

「……ね、寝る時間……ですよね?」

 首を振れば、耳にふっと息をふきかけられる。悲鳴を上げそうになったけれど、ぎりぎりのところで呑み込むことに成功した。

「テーブルの一番上に積んである本。適当な場所からでいい。俺が眠ったら、ランプは消して、そのまま出てってくれ」
「……はい、ブライアス様」
「昔みたいに呼べと言っただろ?」

 低い艶めいた声が耳元でささやく。できません、と返そうとしたら今度は頬にキスされた。

「ひゃあっ!」

 今度は我慢できずに変な声を上げてしまって、ついでに目を見開いてしまう。正面に彼の胸があって、慌てて目を閉じた。

(……こんなことくらいでいちいち動揺している場合じゃないのに……)

 そうは言っても、心臓がどきどきするのだからしかたない。

 ヴィアナがかちかちに固まって離れるのを待っているとようやく気が付いたらしく、ブライアスが離れていく気配がする。

 歩きながら、寝間着の上を羽織っているばさばさという音も聞こえてきた。

 目を閉じたまま、ヴィアナは心臓に手を当てた。そこは恐ろしいくらいにどきどきしていて、今でもヴィアナが動揺していることを告げてくる。

「……いつまで目を閉じているんだ。さっさと始めてくれ」

 今度は彼の声が、部屋の中央から聞こえてくる。

(いつまでって……からかったのはそっちなのに……)

 きっと、昔なら思った通りのことを口にしていた。でも、今は言うことができない。

 彼との間にある身分差が、恐ろしいほど大きなものであることを、大人になった今はちゃんと理解することができるから。

 そろそろと薄目を開けると、ベッドの中央が膨らんでいる。どうやら本当に横になってからヴィアナを呼んだようだ。

 また、何か仕掛けてくるのではないかとヴィアナはおそるおそるベッドの方に近づいた。

「一番上の本だ。わかるだろ」
「はい、……ブライアス様」

 ベッドの側には椅子が一脚用意されている。テーブルの上に積まれている本の中から一番上の本を手にとって、ヴィアナはその椅子に腰を下ろした。

 羽毛布団の中からにょっきりと手が突き出てきて、ヴィアナの手を握る。指を搦めて握るのは、幼い頃から変わらなかった。胸が甘く疼いて思わず口にしていた。

「……懐かしい、ですね」
「俺は懐かしくない。ヴィアナが他人行儀だからつまらない」
「他人行儀じゃないですよ……前とは違う、から」

 これが隣の家に住んでいたただの男の子との十年ぶりの再会なら、きっともっと違った感慨を持てたのだろうと思う。

 けれど、ブライアスはそうではなかった。再会した彼はあまりにも雲の上の人で。ヴィアナがうかつな行動を取れば、彼に迷惑をかけることになってしまう。

(……どうして、こんなにちくちくするのかしら)

 ヴィアナの手を離した彼は、その手を上掛けの上に投げ出したまま読み始めるようにヴィアナを促す。ヴィアナは、ゆっくりと読み始めた。

 ブライアスが枕元に積んでいたのは、子供の頃、弟妹によく読み聞かせをしていた物語だった。この国が建国された当時の物語――とされている。

 当時、この国を建てた王に妖精は永遠の愛を得ることができる冠を与えた。

 王は王妃の頭にその冠を載せた。こうして、この国はいつまでも平和な時を刻むことができるようになったのだ、と。

 そんなのただのおとぎ話であることくらい知っている。けれど、ヴィアナの弟妹は建国物語の絵本が大好きで、毎日何回も読み聞かせをするようねだってきた。

 ヴィアナが読み聞かせをしているところに割り込んできたのがブライアスで――。

(……あの頃は、なんて楽しかったのかしら)

 もう、何回も読んだ本だから、内容は完全に頭に入っている。ヴィアナはゆっくりと読み始めた。

 物語が始まってすぐ、ブライアスの方からすぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてくる。

 ランプの明かりの中、少しだけ彼の顔が疲れているように見えた。

(……もし、私が読み聞かせをするくらいでちゃんと寝られるなら……それでいいんだけど)

 上掛けの上に放り出されたままのブライアスの手を、そっと中に入れてやる。少しでも役に立てたらいい――。

(だって、私はここに働きに来たんだから)

 バートにもよくやっていると、認められるくらいに頑張ろう。音を立てないように、そっとその部屋を後にした。

こちらは2017年2月1日発売【えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ!(ジュエル文庫)】の試し読みです。編集部の許可をいただいておりますが、途中までの公開となることをご了承ください。また、最終校正版ではないため、実際の書籍と多少異なるところもございます。

2017年2月1日発売
えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ(ジュエル文庫)
電子書籍 2016年5月25日配信開始 
征服王の激愛 ~人質姫は蜜夜に喘ぐ~(TLスイートノベル)

    えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ!試し読み(11)      えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ!試し読み(13) 
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Date:2017/02/12
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