迷宮金魚

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2017年2月1日発売
えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ(ジュエル文庫)
電子書籍 2016年5月25日配信開始 
征服王の激愛 ~人質姫は蜜夜に喘ぐ~(TLスイートノベル)

    侍女の困惑 王子の寵愛 (9)      侍女の困惑 王子の寵愛(11) 
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□ 侍女の困惑 王子の寵愛 □

侍女の困惑 王子の寵愛(10)

 
 ――まだ、正式な婚儀は終えていない。それなのにいいのだろうか。
 
 慎みとか、恥じらい、とか。そういった類の言葉が頭の中を駆け巡る。
 
「どうかしたか」

 国境まで迎えに来てくれたエドウィンとクリストハルトは、ヴィオレッタとルチアをそのまま馬車に戻したりしなかった。
 
 なぜかあっという間にもう一台の馬車が用意されて、エドウィンとヴィオレッタ、クリストハルトとルチア――と、別れて乗せられてしまう。
 
(……本当なら、結婚式を終えるまでこういうのってよくない気がするのだけれど)

 少なくとも、ルチアが今まで育ってきた環境ではそうだった。婚約が決まっても、異性とは二人きりにならないこと。
 
 けれど、そんな慣習は国境を越えたとたん無意味になってしまったようだ。
 
「――殿下、あの」

 向かい合って座るのだと思っていたのに、その予想もまた裏切られた。クリストハルトはルチアの左側に落ち着いてしまって、そこから先握った手を離そうとはしない。
 
「いつになったら、名前で呼んでくれるんだろうな」
「そ、それは……ええと」
 
 名前で彼のことを呼ぶなんて、考えたこともなかった。うろうろと視線を泳がせるも、ここは馬車の中。視線の向け先だって限られている。
 
 クリストハルトの両手に包まれた左手が、じんわりと熱くなってくる。左手だけではなく、頬も、耳も熱い。
 
 赤面したのを誤魔化すようにしきりに瞬きを繰り返し、舌で唇をしめらせるけれど、ルチアの動揺なんて、きっと彼は見透かしてしまっている。
 
「……あっ」

 クリストハルトの手に包まれている左手。その手のひらの中央を親指が円を描くようになぞっている。ただ、それだけなのに、左手が痺れたみたいになった。
 
 自分の口から零れた声が信じられなくて、慌てて唇を結ぶ。その勢いで手を引っ込めようとしたけれど、強く握られた手を引き抜くことはできなかった。
 
「――俺の名前は?」
「で、殿下――んぁっ」

 爪の先で、手のひらの中央をひっかくようにされた。とたん、背筋を奇妙な感覚が走り抜ける。今まで覚えのない感覚に、今まで以上に体温が上昇したような気がした。
 
「や、だめ――」

 手を引き抜こうとする力は弱々しくて、とうてい逃れることなんてできない。わかっているのに、反射的に手を引こうとする動きは変わらない。

「名前で呼んだら、離してやる」
「……それは」

 なんで彼はそんなことにこだわるんだろう。知り合ってからずっと「殿下」としか呼んでいなかったのに、今さらそんなことを言われても困ってしまう。
 
 ためらっていた時間は、どちらが長かったのだろう。このままでいいのではないかと思う気持ちと、名前で呼んで欲しいという彼の願いに応えたいという気持ちと。
 
 今、馬車の中にいるのは二人だけ――それなら呼んでしまってもいいだろうか

 ためらい、とまどい、意味もなく手を開いたり閉じたりしてみる。その間、クリストハルトは何も言わずにじっとルチアを見ていた。
 
 そうやって、じっと見つめられるのもまたルチアをいたたまれない気持ちにさせる。

「ク――クリストハルト、様」
 
 長い長い沈黙の後、ようやく一度だけ彼の名を口にする。それだけなのに、手はがたがた震えるし、頭はくらくらするしで、自分でもどうしてしまったのかわからない。

 これで、手を離してもらえると思っていたのに。

「う、う……嘘をつきましたね……!」

 たしかに手は離してくれた。その意味では彼は約束を守ったのかもしれないけれど。
 
 今度は両腕が身体に回されて、その中に囲い込まれてしまったのだから、これでは先ほどまでよりずっと強く密着しているではないか。
 
 だまされたと思う反面、こうやってぴたりと密着している状態を嬉しいとも思ってしまう。
 
 でも、絶対に耳まで赤くなっているし、心臓ははち切れそうになっているし――クリストハルトはずるい。
 
 彼の胸に手を突っぱねて逃げだそうとしたら、右手がちょうど心臓の位置に触れる。
 
(……どきどき……してる……)

 ルチアの心臓と同じぐらいどきどきしているクリストハルトの鼓動。ひょっとしたら、ルチアよりずっと彼の方がどきどきしているのかもしれない。
 
「クリストハルト様……?」

 腕の中に抱え込まれた体勢のまま、彼の顔を見上げてみる。ルチアのいる位置からは、彼の表情は見えるわけではないけれど――それでも。
 
(耳が、赤くなってる)

 クリストハルトは、ルチアよりずっと余裕だと思ってたのに。それでも、彼もまたルチアみたいに赤くなるのだと思ったら、少しだけ安心する。
 
 自分だけが、緊張しているわけではないと知ることができたから。
 
「ルチアに名前で呼ばれると――何か、こう……くるものがあるな」

 わしゃわしゃとルチアの頭をかき回しながら、彼はそんなことを言う。
 
 今までそんな風にされたことなどなかったから、クリストハルトの豹変ぶりに驚かされた。ただ目をぱちぱちとさせていたら、照れくさそうに彼は笑う。

「どうしたらいいのかわからないんだ。どうしたら、ルチアに気持ちを伝えることができるのか」
「……もう、十分いただいてます」
「そうか――まあ、いいんだ。わかってくれているなら」
 
 どうして、彼がルチアを選んでくれたのか――正直なところ、まだ頭では納得していない。でも、大切なのは考えることじゃなくて感じること。
 
 彼の気持ちをルチアはちゃんとわかっているし、ルチアの気持ちも彼に通じている。それだけで十分ではないかと思う。
 
「これからも、よろしくお願いします」

 彼の手に自分の手を重ねたら、そこから温かいものが流れてくるような気がした。

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Date:2017/02/10
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