迷宮金魚

□ 侍女の困惑 王子の寵愛 □

侍女の困惑 王子の寵愛(11)

 
 ヴィオレッタと共にアントリム王国に入ってから三日の後――。盛大に華やかに結婚式が執り行われた。
 
 二人の王子が、同時に妃を迎えるというめでたい事態に、アントリム国民達は多いに盛り上がっている。

「ヴィオレッタ様、今日もとてもお綺麗ですね」
「あら、あなたも素敵――でも、今日からはお義姉様って呼んでもらった方がいいのかしら」

 二人のドレスはそれぞれ共通点を持ちながらも、細部で少々違いがある。どちらのドレスも袖はパフスリーブでふわりと膨らましている。
 
 スカートにはクリスタルビーズと真珠で細やかな刺繍が施されていた。
  
 ヴィオレッタのドレスにあしらわれたのは薔薇の刺繍、ルチアのドレスには百合の刺繍、蔓草を巧みに花と絡み合わせたそれは、職人達が精魂込めて作り上げたものだ。

「……お、お義姉様ですか」
「あら、そうでしょう?」
「それはそうですけれど」

 ヴィオレッタとは長い間親しくしてきたが、二人の間には主従の関係が常にあった。その壁をすぐに壊すというのはとても難しい。
 
 ヴィオレッタがいくらそれを望んだとしても。
 
「――遅いわね、二人とも」

 扉の方に目をやって、ヴィオレッタが息をつく。
 
 来妖怪での結婚式はさきほど終えた。これから貴族達を招いた宴に向かうところだというのに,二人ともこの部屋で待たされたままだ。
 
 結婚式から戻ってくる間に乱れた髪や服を整えてくれた侍女達が、ヴィオレッタが機嫌を悪くしたのではないかとそわそわし始めている。
 
「大丈夫よ、機嫌が悪くなったわけではないから」

 侍女達の不安を感じ取ったらしいヴィオレッタはくすりと笑うと、手を振って彼女達を座るようにうながした。
 
「待たせたな、ヴィオレッタ」
「ええ、本当に」

 入ってきたエドウィンは、軽々とヴィオレッタを抱き上げた。はしゃいだ声を上げたヴィオレッタは、彼の首に手を回す。

「見てられないな、そうは思わないか」
「仲がよろしいということではないでしょうか」

 エドウィンと一緒に入ってきたクリストハルトは、兄夫婦の様子を見て、微笑ましそうに笑うとルチアに手を差し伸べた。
 
「俺も、あのくらいした方がいいか?」
「いえ、そこまでしなくても――」
「いや、やっぱりやめておこう」
「――あっ」

 その言葉と同時に、クリストハルトはルチアの膝の裏に手を差し入れたかと思うと、あっという間に抱え上げてしまった。
 
(ヴィオレッタ様が、声を上げたのもわかる気がするわ……)

 上げかけた悲鳴を、ルチアは唇を強く結ぶことでこらえた。
 
 彼に抱き上げられてふわふわとする。自分から彼の首に腕を回した。
 
(――これから、彼と一緒に歩いて行くんだもの)

 首筋に顔を埋めると、緊張が解けていくような気がする。ルチアの耳元で笑い声を上げた彼は、ルチアを床の上に下ろした。

 今日の王子兄弟は、金糸で刺繍を施した真っ白の盛装に身を包んでいる。彼らの黒い髪を、白が引き立てていて、今日はいつもより精悍な雰囲気だ。
 
「兄上、ヴィオレッタ、そろそろ時間だろう?」
「ああ、そうだな」

 クリストハルトの呼びかけに応じて、エドウィンがヴィオレッタを床の上に下ろす。しかたがないわね、というようにヴィオレッタは笑っていたけれど、ルチアの方に意味ありげなまなざしを向けたのをルチアは見逃さなかった。
 
 ◇ ◇ ◇
 
 王宮の庭に集まった国民の祝福を受け、さらには貴族達との宴が続く。ルチアが部屋に引き上げた時には、日付も変わってしまっていた。
 
 侍女達の手を借りて入浴をすませ、透けるような薄い寝間着に身を包む。今夜、何が待ち受けているのかわかるから、そうする間も気持ちは落ち着かなかった。
 
 二組の新婚夫婦が寝室に引き上げた後も、宴はまだ続いているようだ。窓を閉じていても、歌い騒ぐ声がここまで聞こえてくる。

(クリストハルト様は、どうしてこんなに遅いのかしら)

 今夜からルチアとクリストハルトの寝室になると言われた部屋に入っても、まだクリストハルトは来なかった。

 どうしたらいいのかわからず、むやみやたらに部屋の中を歩き回る。そうしていたら、ようやく扉が開かれた。

「――ルチア、待たせた」

 ゆるりと入ってきたクリストハルトが、ルチアに微笑みかける。かと思ったら、勢いよく近づいてきた彼はぎゅううっとルチアを抱きしめた。

 身体に回された腕の力はとても強くて、頭がくらくらする。ルチアの方からも手をまわし返したら、頭の上から小さな声が聞こえてきた。

「何か、おっしゃいました?」
「ん? たいしたことではない」

 たいしたことではない、と言われると余計に気になる。ルチアはぎゅっと抱き着いたまま、彼の顔を見上げた。

「たいしたことではない、と言われたら気になるではありませんか」
「長かったな、と思っただけだ。ルチアと結婚しようと決めてから今日までずいぶんかかってしまった」

 思っていたのとは全然違う言葉が出てきたから、ルチアは何も言えなくなる。ただ、口を開いたり閉じたりしていたら、クリストハルトは上向けたままのルチアの顎を片手で押さえた。

ここまで来たら、次に何がくるのかはもうわかっている。与えられたキスの甘さと熱に、心までとけるような気がした。


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えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ(ジュエル文庫)
電子書籍 2016年5月25日配信開始 
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    侍女の困惑 王子の寵愛(10) 
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Date:2017/02/13
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