迷宮金魚

□ えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ! 試し読み □

えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ!(15)

 
◇ ◇ ◇
 
 ヴィアナの日課は決まっている。

 朝、ブライアスが朝食に出て行った後、彼の寝室を掃除し、寝具を新しいものと変える。枕元に置く本を変えてほしい時は、ブライアスから図書室にある本を持ってくるようにと指示のメモがある。

 そのメモを片手に図書室に行って本を借りたり返したりしてからがヴィアナの朝食だ。朝食はサンドイッチとお茶に果物が二種類と決まっている。好きなだけ食べられるけれど、具だくさんのサンドイッチだから、二切れでお腹が一杯だ。

 朝食が終わったら、使用人の制服を脱いで、洋服ダンスからドレスを取り出す。

 本当なら、人の手を借りてコルセットをぎちぎちに締め上げなければ着られないドレスだけれど、最近は一人で締められるコルセットというものができたので、他の人の手を借りなくても着ることができる。

「う……もうちょい、締めておいたらよかったかな……」

 上質のサテン、シルク・オーガンジー、シフォン等にレースやリボンをあしらったもの。

 いずれもヴィアナの手が届かないような高価なドレスは、どれも一人で着られるように工夫されたデザインだ。

 改めて教育を受けなければならないヴィアナのために、これだけの用意をするのもどうかと思うけれど。

「今日は、顔色がよくないね。疲れてる?」

 ヴィアナのためにやってくる家庭教師は何人かいるけれど、そのうちの一人はバートだった。

「大丈夫、たいしたことじゃないんです」

 そう言って、ヴィアナは彼の心配を他にそらそうとした。

(言えるはずがない……キス、されただなんて)

 幼い頃親しくしていたことがあったとはいえ、身分の差は超えられるものじゃないと思う。それに、ブライアスは確か昨夜「本気だ」と言っていたようではあるけれど……。

(それだって、本気にしたらいけないと思うの)

 ブライアスが信用できないというわけではなくて……たぶん、彼は現実が見えていないのだ。

 彼ならヴィアナより素敵な女性がいくらでも見つかるはずだ。一回キスしたくらいで浮かれているなんて、自分はどうかしているんじゃないかと思う。

「そう? ブライアス様に何かされたりした?」

 いきなり直球を投げ込まれて、ヴィアナの喉が奇妙な音を立てた。

 何か言わねばならないけれど、そんな問いを真正面からぶつけられると思っていなかったから言葉が出てこない。

「えっと、あのっ」

 ヴィアナが目を瞬かせると、バートは困ったように両腕を広げた。それから、ヴィアナの肩に手を置いて、耳元に口を寄せてくる。

「ブライアス様の言うことは……信じた方がいいと思うよ。あの人はあれで意外と執念深いからね」
「……でも」

 意外と執念深いと言われても困ってしまう。

(信じたって、何も変わるはずないじゃない)

 もし、彼がちょっとだけ身分の高い貴族なら、ヴィアナもまだ夢を見ることができた。

 けれど、現実にはブライアスは王太子でヴィアナはただの娘。彼とヴィアナの間にある壁は、ものすごく高い。その壁を乗り越えるだけの気力はヴィアナにはない。

「……まあ、いいけどね。それを君に信じさせるのも、ブライアス様のやらなければいけないことだと思うし?」

 ぱちり、と彼は片目を閉じる。ヴィアナは首を傾げた。

「あの……バートさん、ひょっとして楽しんでます?」
「すっごく楽しんでるよ」

 悪びれずに言うのだから、彼も質が悪い。ヴィアナはため息をつくと、バートの方に教科書を突き出した。

「今日は、宮中におけるお食事のマナーでしたよね。予習はしてきたので、さっさと始めましょう」

(……考えない考えない。何も考えない方がうまくいくから)

 ヴィアナにできることなんて、たいしてない。

 バートがこうやって教育してくれるのだから、それはありがたく受け入れておくべきで余計なことは考えない方がいい。

 食事のマナーの勉強が終わったら、次は実戦訓練だ。さすがにフルコースとはいかないものの、昼食にはマナーを実践できるだけの料理が並べられる。

 急いで、かつ優雅に、バートの監視のもとでそれを食べ終えた後、他の授業が入る。

「美しく振る舞うためには、裾の裁き方が重要です――と、昨日話しましたよね」
「す、すみません……」

 宮中では、スカートの裾さばき方一つでその人の品位が見えてしまうものらしい。ヴィアナを指導してくれるのは、王妃の指導もしたという年配の女性だった。

(そうね、王妃様は隣の国から嫁いできたんだもの……)

 隣の国とこちらの国では、マナーも多少違うだろう。

 王妃の立ち居振る舞いについて、宮中に入ってから陰口を聞いたことはないから、彼女は先生の言うことをしっかり身に着けたに違いない。

「ヴィアナさん、背筋が曲がっています。背筋はまっすぐに、下は見ない」
「は、はい!」

 たかが使用人のためにドレスを用意するというのは、分不相応だと思っていたけれど、こんな訓練が必要ならドレスが用意されていたのも納得だ。

 広い部屋の中央をひたすら往復するというだけでヴィアナは精一杯だ。

「ヴィアナさん、背筋!」
「ひゃあ!」

 物差しでぴしゃりとお尻を叩かれて、ヴィアナは悲鳴を上げた。

 物差しでお尻を叩く家庭教師なんて、物語の中にしか存在しないと思っていた。まさか、自分がそれを体験することになるなんて。

「……背筋はまっすぐ、前を見て。唇には笑み……ああ、無理……」
「泣き言は言わない、もう一度!」
「うぅ、頑張ります……」

 王妃に教えた家庭教師に教えを請えるなら、いくらお金を積んででも惜しくないという貴族はいっぱいいるだろうしこの機会を有効活用しないと。

 なんて、頭の片隅で貧乏くさいことを考えているうちに、午後の授業も終わりになる。

 日によって、歴史だったり、外交だったり――なぜ使用人が外交を学ぶ必要があるかわからないけれど――周辺諸国の言語だったりと、ヴィアナの学ばなければならないことは多い。

 授業が終わった後は、少しだけ自由時間がもらえるけれど、そこだって予習と復習に当てなければ、授業についていくことができない。

 自由時間が終わったら、すぐに制服に着替えて、次の仕事の準備にかかる。
 ブライアスの寝室が居心地よく整えられているか確認し、室温を調節し、カーテンを閉める。

 それから後はブライアスの予定によって変わってくるけれど、彼が眠りにつく頃に寝室に入ることになっていた。

こちらは2017年2月1日発売【えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ!(ジュエル文庫)】の試し読みです。編集部の許可をいただいておりますが、途中までの公開となることをご了承ください。また、最終校正版ではないため、実際の書籍と多少異なるところもございます。

2017年7月1日発売
パーフェクト愛され人生確定…ですか? 転生したらメロ甘陛下のおさな妻(ジュエル文庫)
電子書籍 2016年5月25日配信開始 
征服王の激愛 ~人質姫は蜜夜に喘ぐ~(TLスイートノベル)

    えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ!試し読み(14)      えっちな王太子殿下に昼も夜も愛されすぎてます お嫁さんは「抱き枕」ではありませんっ!試し読み(16) 
既刊一覧

電子書籍



*    *    *

Information

Date:2017/02/15
Trackback:0
Comment:1

Comment

* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2017/03/31 【】  # 

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://goldfishlabyrinth.blog.fc2.com/tb.php/229-99885151
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)