迷宮金魚

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第一章 彼の心を掴むのです!(1)

 
「レミアス・バジーリウス。そこにお座りなさい」

 病に臥していながらも母の声は厳しさを失ってはいなかった。

 父が亡くなって半年。以前から病弱な母ではあったけれど、葬儀を終え、レミアスがポラルーン公爵の地位を正式に継いでからは一日ベッドから動けないことが増えた気がする。

「――はい。母上」

 言われるままに、レミアスはベッドの傍らに置かれている椅子に腰を下ろした。

 幼い頃から輝くような美しさの持ち主、と言われてきたレミアスであったが、今は両頬が腫れ、右手首には包帯が巻かれているという散々な状況だ。

「今日、無茶をしたのですって?」

「――だって、それは」

「口ごたえは許しません。自分の置かれている立場というものをよく考えなさい。感情の暴走するままにあなたが動いては、他の者に迷惑をかけることになるでしょう。今回、クルトも重傷を負ったと聞いていますよ」

 親友であり護衛役であるクルトに怪我をさせてしまったのは本当のことだったから、レミアスは唇を引き結んだ。

 なぜ、彼がこんな怪我を負っているのかというと、城下町の視察に出た際、子供を誘拐しようとしている一団に出くわしたのだ。

 国境では戦が続く中、父が戦死したことで城下町は不安におびえる人達が多数いた。人々の心に安寧をもたらすためにも、新領主となったレミアスは、子供をさらい、売り飛ばそうとしている者達相手に容赦することなんてできなかった。

 子供をさらおうとしている――それを見て取った瞬間、頭に血が上った。護身のために携えていた剣を抜き、後先考えず男達に切りかかったのである。クルトをはじめとした護衛の者達が止めるのも耳に入らなかった。

 領主を相手にしているなんて知らない男達は当然死に物狂いで抵抗してきた。最初に吹っ飛ばされ、地面に倒れたところを両頬を殴られた。倒れた時に剣を飛ばしてしまい、右手で必死に短剣を抜いて男の脇腹に突き立てたのである。手首の捻挫はその時に負ったものだ。

 レミアスは右手首の捻挫と両頬を腫らせたくらいですんだのだが、クルトは重傷だ。命に別状はないというが、少なくともひと月は勤務に戻れないだろう。

「――一歩間違えれば、あなたもクルトも命を落としたのかもしれないのですよ。そのことはよく覚えておきなさい」

「――はい、母上。肝に銘じて覚えておきます」

 レミアスが素直に反省の弁を口にすると、母はぐったりとしたように枕に身を預けた。

 それ以上、口をきくのも億劫なようで、片手をわずかに動かし、出ていくようにと合図する。

「失礼します、母上――ゆっくりお休みください」

 そのままレミアスは静かに部屋を立ち去った。

 ――まだ十四歳。もう十四歳。

 廊下を歩きながら考えるどちらが正解なのだろう。

 父が亡くなって爵位を継いだ。領地を治めるにあたり、実務では父の弟夫婦が支えてくれている。今、国境での戦も、叔父が指揮を執ってくれていて、もうすぐこちらの勝利で決着しそうだという報告は受けていた。

(……俺は、父上にははるかに及ばない)

 壁にもたれるようにして、深々とため息をついた。秀才だ、と褒め称えられてはいても、父と比較すれば圧倒的に経験不足だ。

 感情の制御だってままならない。

 父ならば、あの時自分から飛び出していったりしないだろう。今後はもう少し落ち着いて物事を判断するようにしなければ。

 


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Date:2018/09/12
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