迷宮金魚

□ インテリ公爵さま、新婚いきなりオオカミ化ですかっ! わたし、押しかけ花嫁でしたよね?  試し読み □

第一章 彼の心を掴むのです!(3)

 
 昨日まで降り続いていた雨も、夜のうちに過ぎ去ったみたいだった。今日は雲の間から青空が顔を出し、夏が近いのだと実感させられる。

(……レミアス様、きっと素敵になってるんでしょうね)

 馬車の中で、シアラは膝の上に抱えた熊のぬいぐるみをぎゅっと引き寄せた。このぬいぐるみはシアラのお手製だ。

 今日はいよいよ『運命の人』との再会の日だ。そわそわしない方がどうかしている。

(……すごく素敵な方だって、噂ばかり聞かされたけど……本当にお目にかかれるとは思ってなかった)

 今日中に、馬車はポラルーン城に到着するだろう。

 シアラは、三か月の間そこで行儀見習いを行うことになっている。

 傍らに置いたバスケットの中におさめられているのは、道中のおやつと飲み物、それから馬車の中で使うかもしれない小物類だ。

 バスケットの蓋を開け、中から手鏡を取り出した。

(レミアス様が、どんな女性がお好みなのかもわからないんだもの。目を合わせてくださったらいいんだけど)

 可愛い女性が好きなのか、綺麗な女性が好きなのか、それとも妖艶な大人の魅力をたたえた女性が好きなのか。

 そんなに不細工でもないんだけど――とため息を一つついて、シアラは鏡に映った自分の顔を点検する。

 卵型の顔、陶器のように滑らかな頬。エメラルドの色にたとえられる深い緑の瞳。

 あえて結い上げていないふわふわとした明るい茶色の髪は、二つに分けて赤いリボンで束ねてあり、コテでふわりとさせた前髪が額にかかっている。

 美人ではなく、かろうじて可愛らしいには区分される程度の容姿。悪くはないのだ。

 だが、ポラルーン領主であるレミアスの心を射止めるにはどれだけ美人でも足りない気がしてならない。

(難しいっていうのはわかっているんだけど……でも、諦められない)

 手鏡を置き、胸元に伸びたシアラの手が、ぎゅっとそこを押さえつけた。指で探れば、銀の鎖に通して首にかけてある指輪の感触が伝わってくる。

 十年以上、何度もくじけそうになった。くじけそうになるその度に、この指輪を撫でて勇気をもらってきたのだ。

「……大丈夫。重ねた努力は嘘をつかないもの」

 懸命に自分に、そう言い聞かせる。

 レミアスに嫁ぐのだと決めたのは、十年以上前。まだ、シアラが六歳の時だった。薔薇の大祭で女王の幸運を取り上げられて泣いていたシアラに、レミアスが指輪を贈ってくれたのがきっかけだ。

 お互いにきちんと名乗ったわけじゃない。シアラがレミアスの名を知っているのは、彼がボラルーン領主の息子だと、母が彼にシアラの面倒を見させてしまった詫びをしていた時に聞いたから。

 レミアスのために、素敵な女性になると決心したのはその時のこと。それからずっと重ねてきた努力は、両親の心をも動かした。三ヵ月だけ、ポラルーン城で行儀見習いができるように手を打ってくれたのだ。

『ポラルーン城で行儀見習いができることになったから、その間だけ頑張っておいで』

 そう言って送り出してくれた両親は、シアラがレミアスの心を射止めるなんてまったく信じていないだろう。

(……三か月なんて、短すぎるわ)

 想いを育ててきたのは十年以上。以来、レミアスにふさわしくあるように勉強してきたけれど、その想いに三ヵ月で決着をつけることなんてできるのだろうか。


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電子書籍 2018年6月1日配信開始 
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    第一章 彼の心を掴むのです!(2)      第一章 彼の心を掴むのです!(4) 
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Date:2018/09/14
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