迷宮金魚

□ インテリ公爵さま、新婚いきなりオオカミ化ですかっ! わたし、押しかけ花嫁でしたよね?  試し読み □

第一章 彼の心を掴むのです!(4)

 
 途中で休憩を挟み、ポラルーン城に到着したのは、もうすぐ日が落ちようかとする頃だった。

 シアラを出迎えてくれたのは、シアラより少し年上と思われる青年だった。黒い髪に黒い瞳。にこりと笑った笑顔は優しくて、緊張が少しだけほぐれた。

「あの……行儀見習いでお世話になることになったシアラ・リーフェンシュタールです」

「僕は、エグモント・ダイメル。話は聞いているよ。ああ、僕の役目はこの城の家令みたいなものだと思ってくれればいい。レミアスの従兄弟なんだ。レミアス・バジーリウスの名はもちろん知ってるよね?」

「も、もちろんです! だって……」

 行儀見習いにお邪魔する城の主だから知っているというわけではない。だが、エグモントの前でその理由を口にするのははばかられたのでそこで口を閉じてしまった。

「そうか、じゃあ、とりあえずレミアスのところに案内する。一応、顔は合わせておかないとね」

「はい、よろしくお願いします。あの、レミアス様って……お忙しいのですよね?」

 トルアックス王国のポラルーン領は、シアラの母国ハズリット王国、それから長年の間抗争状態にあるアルバース王国と国境を接している。ハズリット王国とトルアックス王国の仲は良好で、この二か国の間の国境は安全だと言われている。

 だが、アルバース王国と接している国境は、いつ戦争になってもおかしくない。ポラルーン領主には公爵の称号が与えられており、王からこの地に関してはすべて任されていると言っても過言ではない。

「そうだね。すごく忙しいんじゃないかな――家令を任されている僕も多忙だけれど」

「あ、そう……そうですよね、変なことを聞いてしまってすみません……」

 あまりにも緊張していたものだから、何を口走っているのかもわからなかった。

 エグモントの半歩後ろをついて歩く。階段をいくつも昇り、廊下を右に曲がったり左に折れたりして、ようやく目的地に到着した。

「――レミアス、入るよ」

 エグモントの口調が、家令のそれではないのは、レミアスの従兄弟だからだろうか。

(ひょっとしたら、兄弟同然の仲とかなのかしら。年齢も近そうだし)

 シアラの推測が間違っていなければ、エグモントは二十前後。おそらく二十代に入ったところだろう。レミアスが二十歳であることを考えあわせると、この城で兄弟同然に育った仲だったとしてもおかしくはない。

「何かありましたか。今日の仕事は、終わりにしてもいいと言ったはずですが」

 扉の外にまで聞こえてきた言葉に、不意に心臓が掴まれたみたいに苦しくなった。

 シアラが聞いたことのある少年の声ではない。艶を帯びた低い大人の男性の声だ。彼と顔を合わせたのは一度きり。それも今から十年以上前なのだから、声変わりしていることくらい想定できたのに。

 扉を開き、エグモントが先に中に入る。開いたままの扉から会話する声が聞こえてきたけれど、シアラは開いた扉の陰から動くことができなかった。

「行儀見習いの子が来るって話だったの忘れたのか? ほら、アルバース王国からの。君と顔合わせくらいしとかないと問題だろう」

「ああ、今日の到着でしたね。もうこんな時間ですか――気が付きませんでした。すぐにお通ししてください」

「シアラ、中に入っておいで」

 エグモントに言われ、扉の陰から室内に足を踏み入れる。緊張のあまり、右手と右足が一緒に出てぎくしゃくした歩みになってしまう。

 その様子にぷっと、シアラの左手の方から噴き出す音が聞こえてきた。ぎぎっと音がしそうな動きで、シアラはそちらに顔を向ける。

(……すごく大きい……!)

 部屋の壁にもたれるようにして立っていたのは、シアラが今まで見たことないくらい『大きい』人だった。大きいというのは大げさではない。

 天井につきそうなほど――というのは誇張が過ぎるにしても、背が高いし、肩幅も広い。男性の平均より二回りほど胸回りも広そうで――とにかく、縦にも横にも『大きい』のだ。

 明るい茶色の髪を短く刈り上げていて、青い瞳は愉快そうにシアラを見下ろしている。

 シアラだって、女性の平均くらいの身長はあるはずなのに、急に小人になったような気がした。

「そんなに緊張して、大丈夫か? うちのご領主様は、別に取って食ったりしないけど」

「え、ええと、その、ええと、あの……」

 くすくすと笑いながら言われれば、頭の中が真っ白になった。スカートをぎゅっと掴んだまま、彼の顔を馬鹿みたいに見上げていることしかできない。


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    第一章 彼の心を掴むのです!(3)      第一章 彼の心を掴むのです!(5) 
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Date:2018/09/15
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