迷宮金魚

□ インテリ公爵さま、新婚いきなりオオカミ化ですかっ! わたし、押しかけ花嫁でしたよね?  試し読み □

第一章 彼の心を掴むのです!(8)

 
「母国であるハズリット語は当然として、アルバース語もトルアックス語も母国語同様に操れますし、日常会話程度ならさらに三か国語。それから、城の切り盛りもできます。料理に洗濯、裁縫といった家事一般もばっちりですし、お医者様がいなくても基本的な手当てができるように、医学の初歩は学んでます。あと、薬学も」

 指折り数えながら、自分が学んできたことを告げると、クルトは感心したように目を丸くした。さらにシアラは畳みかける。

「あとは、こういう政情ですので、いざという時は政敵の暗殺ができるように毒物についても学びましたし――あとは毒を盛れない相手を呪殺できるように呪術も少々」

「おいこらちょっと待て。最後の二つはどうかと思うぞ?」

 レミアスが暗殺なんて手段を必要としているとは思っていないが、最低限の教養として納めるべきところはきちんと押さえてきた。だから、胸を張ってクルトの前で力説する。

「何事にも準備が肝心です!」

「そりゃまあそうだろうけどさぁ、何それ、王女殿下にも匹敵する教育内容だろうに。悪いがお前さんとこ、地方の小さな領主だよな?」

「ええまあ。でも、教育は無駄にはならないというのが両親の方針でしたので――私がもうちょっと美人だったら、有力貴族に嫁入りさせることも考えたかもしれないですね」

 シアラのわがままを聞いて、両親はできる限りの教育を与えてくれた。

 もちろん、必要以上のお金がかからないように、シアラの方も工夫はしてきた。その結果が、現在につながったというわけだ。

「ええと、お前何歳だっけ?」

「十八になりました」

「ふーん、それならまあ、ちょうどいいのか。年齢的にも釣り合い取れてるしなぁ。身分なんざ俺はどうでもいいし、レミアスも気にしないだろ」

 何事か考えるような表情になったクルトは、シアラの目の前に膝をついたままこちらを見上げてくる。

「レミアスを落とすのは、けっこう大仕事になるぞぉぉ」

「……わかってます」

 レミアスがシアラを本気で相手にしてくれる可能性なんて限りなく低いのは承知の上だ。だから――クルトの言葉に、真正面からシアラは返した。

「両親も……三ヵ月の行儀見習いの間にレミアス様のお心を掴めなかったら帰って来いと言ってますし。三ヵ月が勝負です」

「マジで?」

「マジ……ええと、真面目な話なのかと言えば、そうなりますね。縁談が持ち込まれてないわけじゃないみたいなので」

 地方領主の娘とはいえ、シアラの縁談だって自由に決められるというわけではない。家のために、両親の決めた相手と結婚するのがシアラの身分なら当たり前。

 わがままを言って身に着けた教養を考えれば、シアラを欲しがる貴族がいてもおかしくはない。

 だが、両親は国境を越えてポラルーン城に行儀見習いに出ることは認めてくれた。その間に、万が一――ほとんどありえない話ではあるけれど――レミアスの気持ちを掴むことができたら、親の決めた相手でなくてもいいという条件を呑んでくれた。

 レミアスならば両親が持ってくる縁談の誰より、恵まれた結婚相手になるだろうが――。

「はー! そういうことかー! まあ、そういうことなら」

 ドンとクルトは自分の胸を叩いた。

「俺に任せとけって。シアラがその気なら、仲をとりもつくらいはしてやってもいいぜ」

「……本当ですか?」

「うん。レミアスのやつ、浮いた話の一つもないからさー、少しくらいいいだろ。俺にできるのは取り持ってやるってところまでで、確実にくっつけてやるって約束はできないんだけど」

「思ってたより、いい人ですね!」

「だろぉ? よしよし、じゃあとりあえず、エグモントのところに行こうか。あそこでこっち見てるだろ」

 にかっと笑ったクルトが指さした方向を見れば、エグモントが両腕を胸の前で組んでこちらを見ている。ここからでも、彼の眉間に深い皺が寄っているのに気づいてしまって、シアラはいたたまれない気分に陥った。

「申し訳ない、です……」

 城主に挨拶に出向いた部屋から、思いきり脱走してきてしまった。いたたまれなくなって、うつむいたら、目の前にいるクルトは思いきり声を上げて笑い始めた。

「いいって。誰にでも失敗はあるもんだろ。それをいちいち怒っていたら、きりがないさ」

 この城の人達は、一応、シアラを歓迎してくれるつもりはあるらしい。

 クルトのその言葉にちょっとだけほっとして、シアラは改めてエグモントの方に近づいた。

「……レミアスの前から逃げ出すなんて、君もたいがいだよね」

「本当に申し訳なく思って……」

 エグモントの言葉には逆らえない。レミアスの前から脱兎のごとく逃げ出したのは事実だし、自分の口走ったことが、常識では考えられないのも理解している。

「まあいい。君の部屋に案内するよ」

「よろしくお願いします」

 エグモントに連れられ、改めて城内に足を踏み入れた。まず連れていかれたのは、行儀見習いに来た女性が宿泊するための部屋だった。


2018年3月1日発売
若奥様は愛されすぎて困惑中! 旦那様は超☆絶倫!(ジュエル文庫)
電子書籍 2018年6月1日配信開始 
皇帝陛下は花嫁狩り ~いきなり私が皇妃様!?~(LUNA文庫)

    第一章 彼の心を掴むのです!(7)       第一章 彼の心を掴むのです!(9)  
既刊一覧

電子書籍



*    *    *

Information

Date:2018/10/05
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://goldfishlabyrinth.blog.fc2.com/tb.php/249-122886b4
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)