迷宮金魚

□ 追放聖女はシンデレラ 俺様魔王に溺愛されて幸せです □

第一章 置き去りにされた聖女は魔王の城にとらわれて?(3)

 
 次に目を開けた時には、室内は薄暗くなっていた。日がだいぶ傾いたということなんだろうか。それともあれから何日か経過したのだろうか。

(……まさか、魔王の城に捕らえられているなんて)

 上質な上掛け布にくるまるみたいにして、身体を丸める。

ここは敵地だ。油断はできない。

 そう言えば、今横になっているのはスライムだった。ゆっくりと身を起こし、ぷるぷるとしたスライムを撫でてみる。どうしてスライムなのに、自分の上に乗っているいる獲物を食べようとしないんだろう。

「……なんで、私を食べないのかしら」

 本来スライムというのは獲物を跡形もなく食べつくすものだ。

 それこそ骨まで解かされてしまうので、行方不明者の中にはスライムに食べられた者も何人もいるだろうとされている。

「俺の魔力を繰っているからな、それで十分だ。それに、このクラスになると不必要なものは捕食しないようになる」

「そ、そういうものなの――って、きゃあああっ!」

 目を開いた先にいるのはヴァラデルだった。

 いつの間に姿を見せたのか、ベッドに両手をつくようにして、こちらを見下ろしている。

「気分はどうだ?」

「ど……どどどどうって言われても!」

 アマリエは慌てて鼻の下まで上掛け布の中に潜り込み、その下で身を縮めた。

「わ、悪くないです。すっごくいいです!」

「そうか。回復に特化したベッドだからな」

「か、か、回復って――ベッドって――! だって、これ、魔物……!」

 魔族の世界の生物は、魔族と魔物の二種類に大別される。明確な区分は決められていないものの、人語を解し、人間以上の知能を持つ者を魔族。それ以外のものを魔物と呼ぶことが多い。

 そして、スライムは魔物に分類される生き物だった。

「魔物って、これは俺が作った特製スライムベッドだぞ。三百年物で、寝ている者の体力と魔力の回復を増進させる。俺の魔力を直接注いでやってもよかったんだが、あまりにも弱っていて、それだとお前が死ぬ可能性があった。気持ち悪いかもしれないが、我慢しろ」

 食べられないと知れば、少しは気が楽になる。

だが、いいのだろうか。自分は一応聖女なのだが。おそるおそる問いかけてみた。

「あの、どうして私……ここにいるんですか……?」

「三日前、サラの新作を観るために、サウルの町に出かけていたんだ。そこで、消えかけているお前の魔力の気配を感じた。行ってみたら転がっていたので、連れて帰ってきたというわけだ」

 三日前って! 出かけていたって!

 どこから突っ込んでいいのかわからない。

 魔王がそんなにほいほい人里に現れるものなのだろうか。それでいいのか、魔王。

「サラ? 上演?」

 なんだかますます魔王の口から出てくるのには似つかわしくない言葉のように思えるのだけれど。

 ヴァラデルの言ってることがますますわからない。枕に落ち着けた頭を捻っていたけれど、彼はそのまま続けた。

「――お前、サラを知らないのか? 今、サウルの町で一番人気の女優だぞ?」

(そんなことを言われても)

 知らないものは知らないのだ。いままでのんびり観劇するような余裕は与えられなかったから。

ふっとアマリエの心の中に反発する気持ちが芽生えたけれど、今は逆らわない方が得策だ。

 それに、髪を滑る彼の手の感覚が気持ちいい。

「あの……私のこと、連れて帰ってどうするつもりだったんですか?」

 そう問いかけたら、ぼんっと魔王の頬が赤くなった――ような気がした。

 それから彼は、わしゃわしゃとアマリエの髪をかき回す手に力をこめる。

「いいから、お前はとりあえず寝てろ」

「それに、私……勇者パーティーの一人で、その魔王セエレを倒して……」

「それもわかってる。だが気にする必要はない」

 気にする必要はないのか、それでいいのか。ヴァラデルはセエレの後継者ではなかったのか。

頭の中をぐるぐると回る疑問が多すぎて、事態を飲み込むのも難しい。

(……だけど)

 セエレを倒した場所から一週間ほど歩いたところで倒れたはず。その間は、途中で採取できた果物しか食べていなかった。

 ――その割には、空腹感というものはない。

 身体もすっきりとしている。完全回復とはいえないにしても、最後に倒れた時とは比べ物にならないくらいぴんぴんとしているのは間違いない。

 スライムベッドの回復力、おそるべしということなんだろうか。

「何か食べられそうか? 食べられそうなら食べ物を用意するが」

「い、いえ、そんなことをさせるなんて……!」

 そのとたん、盛大に腹が鳴った。

「やや、これはっ!」

 慌ててアマリエは腹部を押さえる。

 こんな風に空腹を感じるのなら、健康の証拠なのかもしれないけれど、何も今、このタイミングで鳴らなくてもいいではないか。

「お、お腹が空いていないわけではなくて……いえ、お腹は空いているのだけれど!」

 胃のあたりを押さえると、たしかに空腹なのだと訴えかけてくる。少し、しくしくするのはお腹が空き過ぎていたからのようだ。

「だと思ったんだ。とりあえず、食え」

 ヴァラデルが指をぱちりと鳴らすと、傍らのテーブルに突然スープの皿が出現した。

 ベーコンやキノコで出汁をとったらしく、横になっているアマリエのところまでいい香りが漂ってくる。

「大丈夫だとは思うが、スープから始めろ。人間の身体のことはよくわからん。サウルの医者に聞いたら、病人には、スープから始めるといいとと言っていた」

(……わざわざ、町のお医者様に聞いてくれたの?)

 アマリエのために、わざわざ?

 大きな手が、アマリエの背中を支え、ベッドに座らせてくれる。彼はまめまめしく、アマリエの背中にクッションをいくつも差し入れてくれた。

「問題ないだろ?」

「……だ、大丈夫だと思います。私、自分の身体のことは自分でわかるので」

 どうして魔王が自分を助けてくれるのかはわからないけれど、とにかく今は食事をした方がいい。スープに添えられていたのは銀のスプーンだった。


2019年1月25日発売
追放聖女はシンデレラ 俺様魔王に溺愛されて幸せです(ジュエルブックス)
電子書籍 2018年6月1日配信開始 
皇帝陛下は花嫁狩り ~いきなり私が皇妃様!?~(LUNA文庫)

    第一章 置き去りにされた聖女は魔王の城にとらわれて?(2)      第一章 置き去りにされた聖女は魔王の城にとらわれて?(5) 
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Date:2019/02/02
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