迷宮金魚

□ 雑記 □

第一章 置き去りにされた聖女は魔王の城にとらわれて?(4)

 
 セエレは人間を支配下に置こうとしていたけれど、ヴァラデルとソフィエルは比較的人間に好意的らしい。そして、レガルニエルは、特に好意的というわけでもないけれど、あえて人間界に打って出るつもりもないのだとか。

「ということは、今は少しは平和になったということなのかしら……」

「そうだな。そう言ってもいいだろう。それに、俺は人間に対してさほど悪い印象は持っていない。というか、人間達の作る演劇などをこよなく愛しているからな」

 まったく、魔王達というのはどうなっているのだろう。

 少なくとも、今目の前にいるヴァラデルは、人間を攻めようという意思は持っていないというらしいことだけは理解した。

(……この人の言うことをまるきり信じてしまうのも間違いかもしれないけれど)

 魔族は人間よりよほど狡猾だという。それならば、彼を信じるのも危険かもしれないけれど。

 ゆっくりとヴァラデルはアマリエの口にスープを運んでくれて、アマリエはそれを残すことなく飲み干した。

(この人と話をしていても、あまり怖くない……)

 最初は何事かと思ったけれど、比較的彼はアマリエに優しい。

 行き倒れているところを拾ってくれたのだから、いい人に決まっている。

「ところで、お前はなんであんなところに倒れてたんだ? 勇者パーティーっていうのは、四人組だと聞いてたんだが」

「他の三人は先に帰っちゃったみたいで」

 しかたないですよねー、と苦笑い。

ぽつぽつとアマリエは語る。セエレとの戦いで真っ先にアマリエが倒れたこと。

神父が持たせてくれた『身代りの羽根』でなんとか生き返ったこと。

 アマリエが倒れた後、他の三人でセエレを倒したらしいこと。

 蘇生魔法を三回もかければ、魔力が枯渇してしまうから、そこで再び倒れてしまったこと。

 あの時の様子をアマリエが完全に覚えているわけでもないけれど、たぶん体温も低下し、脈拍も弱くなっていたはず。ぱっと見ただけで、死んだものと思われたに違いない。

「たぶん、皆も埋めるだけの体力なかったんですよ。だから、ある意味ついてたなって」

 少しだけ回復したところで、ゆっくりと歩きだした。魔族に襲われる恐怖と必死に戦いながら。

 水を確保し、食べられるものを探し。そうやって、なんとかサウルの町まで戻ってくることができた。

「そうか、それでか。強大な魔力を持っているのに枯渇するからおかしいとは思ってたんだ。蘇生魔法を三回も使えばそうなるだろう――下手をしたら、お前、本当に死んでたぞ?」

「仲間は見捨てられないから、しかたないですよね」

 孤児院を出て、勇者パーティーに加わって二年。

 最初はぶつかりあったりもしたけれど、幾多の戦いを潜り抜ける中、結束は強まっていった。 生きる時も死ぬ時も一緒と誓った彼らがいたからこそ、セエレを倒すことができた。

セエレを倒した彼らを生き返らせることができたのだからこれでよかったのだ。

「……あの、私これからどうしたら?」

 魔族に命を助けてもらって図々しい気もするけれど、皆のところに帰りたい。皆だって、アマリエが生きていたと知ったら喜んでくれるだろう。

 ぽつりぽつりとそう説明したけれど、ヴァラデルは難しい顔になった。

「お前が帰りたいというのならそれはそれでいいんだが、この城を出たらお前死ぬぞ」

「……え?」

「蘇生魔法を三度も使ったことによる体力魔力の枯渇。これは普通の回復薬や魔法で回復するようなものじゃない。根本から身体がぼろぼろになってるんだからな」

 そういうものなのか。たしかに身体が妙に重いし、今まで常に溢れていた魔力の存在をほとんど感知することもできない。

「今は、回復したように思えるかもしれないが、俺の魔力でなんとかもたせている状況だ。この城を離れれば俺の魔力も届かなくなる」

「そう……ですか……では、手紙を……届けることは?」

「お前がこの城から出ても大丈夫だと判明してからの方がいいと思うぞ。城から出ても大丈夫なほど回復するかどうか、俺にもまだわからん。こういう事態は初めてだからな。それが判断できるまでここにとどまれ。その方がいい」

「――でも、あの、ご迷惑、じゃ……?」

 どうひいき目に見ても、魔王の城に聖女がいるというのはあまりよくないのではないだろうか。

 アマリエが不安に揺らぐ目を向けると、ヴァラデルはぽんぽんとアマリエの頭を軽く撫でる。

「迷惑だと思うなら、最初からここに連れてきたりしない。言っただろ? 俺は、人間とはうまくやっていきたいと思ってるんだ。だから、聖女を殺したりしない――本調子になるまでここで養生してろ」

 髪を撫でる柔らかな手。アマリエの髪を撫でる穏やかな手つき。

 アマリエの胸の奥で何か温かなものが芽生えてくる。

 思えばこの二年というもの、こんなにも落ち着いて休んだことはほとんどなかった。

 野宿している時は、いつ魔物に襲われるかわかったものではなかったから。

「……温かい」

 彼の手から流れ込むのは、柔らかな魔力。アマリエはそっと目を閉じると、送り込まれてくる柔らかな快感に身をゆだねた。

 

 ◇ ◇ ◇




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Date:2019/02/03
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