迷宮金魚

□ 追放聖女はシンデレラ 俺様魔王に溺愛されて幸せです □

第一章 置き去りにされた聖女は魔王の城にとらわれて?(5)

 
(毒物は入っていないという意思表示なのかしら……?)

 毒物の中には銀に反応して黒くなるものもあるという。

 すべての毒物に反応するわけではないけれど、王宮では銀のスプーンが使われているという話は聞いていた。

(……え?)

 スプーンを手に取ろうとしたら、ひょいとそのスプーンが遠ざけられた。ついでにスープの皿も。

 困惑するアマリエの前に、銀のスプーンですくわれたスープが差し出される。

「――食え」

 魔王に、食事を与えられようとしている……?

 この状況、いろいろと間違っている気がしてならない。けれど、差し出されたスプーンを追いやることもできず、アマリエは小さく口を開けた。

(……だって)

 熱々のスープを、目の前でふーふーして冷ましてくれているのだ。飲まないという選択肢はない。というか、ここで断ったらますますいろいろマズそうな気がしてくる。

「……おいしい」

 慎重な手つきで口元まで運ばれたスープは、優しい味だった。ほっとする。

「よかったよかった。俺はうまいと思うが、俺の味覚と人間の味覚が一致するかどうかはわからなかったんだ」

「……いえ。あの、ありがとうございます」

 相手が魔王だと思うと怖いが、彼の魔王らしいというところはあふれ出る魔力の大きさくらい。魔力の大きさを感じ取ることができるのは、日頃魔力を使っているアマリエ達のような人間だけ。

 体格がよくて頼りになりそうなところは、むしろ魅力的な男性と言ってもいい。

「でも、本当にいいんですか……? 私を助けてしまっても……?」

 二口目のスープを飲んでからたずねる。

 アマリエは、彼からしたら敵でしかないだろうにわざわざ面倒まで見てくれるなんて。

「私……、魔王を倒したのに」

 だから? というようにヴァラデルは片方の眉を上げた。アマリエ達が、魔王を倒したというのに彼は気にしないというのだろうか。

「お前達が倒したのはセエレだろ? そのことなら、俺は気にしない――俺達は、互いにそういった意味では関わらないことにしているからな」

「互いに?」

 では、ヴァラデルはセエレのあとを継ぐ魔王ではないということか。しかし、ここは彼の城だという。ということは、彼もまた魔王だというわけで。

「お前達が魔王と呼んでいるのは、魔物や魔族とお前達が呼んでいる存在を治めているもののことだろう。俺達にとって魔王というのは、魔族の中でも力が強く、他のものを支配下に置いている存在という認識でしかない」

 ヴァラデルの説明によれば、魔王と呼ばれる存在は現在三人――人という数え方が正しいかどうかは別として――いるそうだ。

 ヴァラデル、ソフィエル、そして、セエレ亡き後、セエレのあとをついで新魔王となったレガルニエル。

 こうして、アマリエの魔王城での生活が始まった。

まず、朝食の時間になるとヴァラデルと一緒に朝食をいただく。

 魔王であるヴァラデルは食事を摂る必要はないらしいのだが、「楽しみ」としての食事はやめるつもりはないそうで、毎朝アマリエのところまで来てくれる。

朝食を食べた後は、すぐに横になる。体力が尽きていると言われたのは本当のことらしく、食べるとすぐに眠くなってしまうのだ。

それから、昼食と夕食もヴァラデルと一緒に部屋でいただく。

一週間もたつ頃には体力も少しずつ回復してきて、目を覚ましていられる時間も少しずつ長くなってきた。数日中には、ベッドを下りる許可も出そうな雰囲気だ。

 今朝のメニューは、焼きたてのふわふわとしたパン。バター、蜂蜜、ジャム。卵料理にハムかベーコン、茹でた野菜。そこに野菜スープが加わって、最後には山盛りの果物だ。

 アマリエが育った孤児院の朝食は、薄いスープとパンだけだったから、それと比べるととても贅沢だ。たぶん王宮で王族達が食べている朝食はこんなものなのだろう。

 部屋で一緒に朝食を食べながら、二人で話をするのも楽しいけれど、一つだけ問題点があった。


2019年1月25日発売
追放聖女はシンデレラ 俺様魔王に溺愛されて幸せです(ジュエルブックス)
電子書籍 2018年6月1日配信開始 
皇帝陛下は花嫁狩り ~いきなり私が皇妃様!?~(LUNA文庫)

    第一章 置き去りにされた聖女は魔王の城にとらわれて?(3)      第一章 置き去りにされた聖女は魔王の城にとらわれて?(6) 
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Date:2019/02/04
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