迷宮金魚

□ 追放聖女はシンデレラ 俺様魔王に溺愛されて幸せです □

第一章 置き去りにされた聖女は魔王の城にとらわれて?(6)

 
「――魔王様」

「その呼ばれ方は好かん。ヴァラデルと呼べ」

「……でもそれって、なんだか妙ですよねぇ」

 ヴァラデルのことをそのまま呼び捨てにするというのはなんとなく違う気がする。

 相手は一応魔王ということは、魔族達の王様だし。

(あまり魔王っぽいところはなかったりするけれど……)

 とちょっとしみじみとしてしまうのは、ヴァラデルがアマリエにあまり魔王らしいところを見せないからだろう。

「あのですね、魔王様」

「ヴァラデルと呼べと言ったはずだがな」

「無理……無理ですって……!」

「呼ばないとベッドから出してやらん」

「きゃーっ!」

 そうだ、これはスライムだった。ぷるんと震えたかと思うと、アマリエを顔以外すべて呑み込んでしまう。食べられないとわかっていても、あまり気持ちのいいものではない。

「ヴァ――ヴァラデルさんっ!」

 折衷案で『さん』をつけてみた。本当なら呼び捨てでもいいくらいなのに。

「む、しかたないな。それで妥協するか――ティカ、服を持ってきてやれ」

「かしこまりましたぁっ!」

 元気な声と共に、ひょいと姿を見せたのは、小さな女の子だ。

 黒いメイド服に白いフリルのついたエプロン。髪を二つに分けてピンクのリボンで結び、頭にはちょこんとヘッドドレスが乗せられている。

 目は大きくてくりくりとしている。可愛い。ものすごく可愛い。

「こいつはティカ。人間の世界では家妖精と呼ばれたりしている種族だ。世話係につけるから好きに使え」

 家妖精は、掃除をしたり料理をしたり、家事を手伝ってくれる存在らしい。

「ベッドからは出てもいいが、俺がいいと言うまで、部屋からは出るな。まだ回復してないんだからな」

「……はい」

 正直、部屋にこもりきりになっているのは退屈だけれどここはヴァラデルの城だ。彼の言う通りにしておいた方がいい。

 仕事があると出ていく彼を見送った後で、ティカが持ってきてくれた服の山に目をやる。

(こ、これってどうなのよ……!)

 世話係をつけると言った理由を理解した。この服を一人で着るのは不可能だ。

 上質の仕立てなのはわかる。袖口にフリルがたっぷりと使われたピンクのドレス。どこかの貴族の令嬢が似たようなのを着ているのを見た。

スカート部分が幾重にもフリルを重ねた形になっている青いドレスも可愛い。黄色のストライプのドレスは、袖の部分が大きくて振袖みたいになっている。

どれも可愛らしいけれど、アマリエの目から見たらあまりにも非実用的で、こんな服を着ていたら、何もできないのではないかと思う。

「あ、あのね、ティカ……私の着ていた服はどこにいったのかな……?」

 アマリエが着ていたのは、動きやすさを重視した木綿のシャツに毛織物のズボン。それからベストや上着を重ね着して、一番上には防御力の高い魔法のローブを着ていた。

「あー、あれは……ぼろぼろ過ぎて修復不可能だったので捨てちゃいましたです」

「あ、そう……でも、この服だと動きにくいわよね……あ、あなたみたいな服はないの?」

 ティカが着ているメイド服なら、動きやすそうだ。それに汚してしまう心配をする必要もないし。

「ティカが用意した服は気に入らなかったですか……?」

 あまりにもティカがしょんぼりしてしまったので、申し訳ない気分になった。

「ご、ごめんなさい! 気に入らなかったわけじゃなくて、どれも素敵で……だから、汚したくないの。わかるでしょう?」

「大丈夫! 洗濯魔法できれいになるですよ!」

 そういう問題ではないんだけどな……と思ったけれど、ティカをがっかりさせたくなくて、ピンクのドレスを着ることにした。

 まだ、ヴァラデルの許可が下りないので、部屋の外に出ることはできない。縫物がしたいと言ったら、ハンカチに刺繍をすることになった。

窓辺に置かれたテーブルに刺繍道具を広げ、ティカが持ってきてくれたハンカチに花と鳥の模様を刺繍していく。

「アマリエ様は、裁縫がお上手ですね!」

「そうね、孤児院育ちだから――孤児院では、なんでも自分でしないといけないもの。洋服を作るのもね」

「あとは、何を作りましたか?」

 ティカが首をふる度に、二つに分けて結った髪がぶんぶんと揺れる。その様子はとても可愛らしくて、思わずアマリエは微笑んだ。

「あとは、厨房でお料理したり、お菓子を作ったり。お菓子は、孤児院のバザーで売ることもあったかな」

 孤児院には育ち盛りの子供達がたくさんいる。寄付金集めのためのバザーでは、アマリエが焼いたお菓子を売っていて、それはかなりの高評価だった。

「お菓子、ですか!」

 刺繍道具を手にしたまま、ティカが嬉しそうな声を上げる。

「ティカ、お菓子作るの好きですよ! アマリエ様、今度で一緒に作りましょう!」

「い、いいのかしら……?」

 アマリエの目から見たら、美少女なので、一緒にいるとわくわくしてくる。もともと小さい子達の面倒を見ていたので、子供は好きだし。

「魔王様も喜びます。魔王様は甘いお菓子が好きですよ」

「そうなの?」

 アマリエは目を丸くしてしまった。ヴァラデルが、甘いお菓子を好むなんて考えたこともなかった。彼ならどちらかと言えば、お酒の方を好みそうだと思ったというか。

(でも、楽しみとして食事はすると言っていたから……)

「もちろんですとも! ヴァラデル様は、アマリエ様にゾッコンなのですよ!」

「それはないと思うけれど」

 今の様子も、子供が大人の真似をしているみたいで可愛い――とは言わなかった。たぶん、ティカはそう言っても喜ばないだろうと思ったから。


2019年1月25日発売
追放聖女はシンデレラ 俺様魔王に溺愛されて幸せです(ジュエルブックス)
電子書籍 2018年6月1日配信開始 
皇帝陛下は花嫁狩り ~いきなり私が皇妃様!?~(LUNA文庫)

    第一章 置き去りにされた聖女は魔王の城にとらわれて?(5)      第一章 置き去りにされた聖女は魔王の城にとらわれて?(7) 
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Date:2019/02/05
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