迷宮金魚

□ 追放聖女はシンデレラ 俺様魔王に溺愛されて幸せです □

第二章 魔王城の意外と平和な日々(1)

 
 三日後、朝食の席に現れたヴァラデルは機嫌がよかった。

「アマリエ、昨日のケーキはうまかったぞ」

「よかった! お口に合いました?」

「お前が作ったものなら、なんでもうまい」

 そんな風に手放しで誉められると、顔が赤くなってしまう。

 結局、一昨日焼いたケーキは、一晩寝かせた後、二本を家妖精達に、もう二本はヴァラデルに届けることになった。ヴァラデルの口に入ったのは昨日のこと。口に合ったか心配だったので、誉め言葉は素直に嬉しい。

(気に入ってくれたのならよかった……)

「また、明日焼いてもらいたいのだがいいか」

「もちろん! 何かお好きなお菓子はありますか?」

「――そうだな、昨日と同じチョコレートのケーキがいい」

 チョコレートとナッツを刻んで入れたパウンドケーキがことのほか彼のお気に召したらしい。

「じゃあ、明日も二種類作りますね。あとで、何が作れるか厨房に行って材料を見てみます」

「頼むぞ。足りないものがあれば、ティカに言え。買い出しに行かせるから」

「――はい!」

 そう言われると、なんだかとても張り切ってしまう。自分は単純なのかもしれないと思いながら、アマリエは部屋を出た。

 今日もティカはちょこちょことアマリエの側をついて回っている。

 彼女の存在に、ずいぶん気持ちを楽にすることができた。

「材料を調べたいから、厨房に付き合ってくれる? 足りないものはティカに言えば調達してくるって聞いたから」

「かしこまりましたです!」

 ティカを連れて、アマリエはゆっくり廊下を歩いていく。

 ヴァラデルの城は広いし、人間であるアマリエにとっても居心地よくしつらえられていると思う。

 高い天井に石造りの壁。天井を見上げれば、格子状に区切られた中、一つ一つに精緻な絵が描かれている。

 窓は大きく、開放的な作り。上の方が優美なアーチを描いた窓枠には金の金具がはめ込まれていて、窓ガラスは曇り一つなくピカピカに磨かれている。

 床には、金で縁取りをした茶の絨毯が敷かれていて、ちょっと踏むのをためらってしまうくらいにふかふかだ。遠慮なく踏んで歩いているけれど。

 セエレの城は、こんな城ではなかった。石造りの城であるのは変わりなかったけれど、窓は小さいし、じめじめしていたし、壁にはランプのかわりに発光する魔物が埋められていた。

おまけに、あちこちから血と黴の臭いもしていて――。あの時のことはあまり思い出したくなかったので、首をぶんぶんと横に振る。

(ヴァラデルさんって、感覚が人間に近いのかも)

 それなら、こうやって人間の城のような造りにしているのもわかる。

「アマリエ様、ティカはクッキーも好きです。クッキーは焼けますか」

「もちろん、焼けるわよ? そうね、バタークッキーを焼くのもいいかしら」

 今日は、作業をするつもりはないのでメイド服は着ていない。

最初に出されたドレスよりも、装飾が少なくて動きやすい服にしてもらった。色がベージュなので、汚したら大変だと思ってしまうのは身体に染みついた庶民根性のせいだろうか。

ベージュのワンピースは、腰のところを茶のベルトで締めている。スカートは膨らませてなくて細めだ。襟のところと袖口のところは控えめにレースで飾られているのも可愛い。

 隣にいるティカは、いつもと同じメイド服だ。アマリエの半歩後ろをちょこちょことついてくる。


2019年1月25日発売
追放聖女はシンデレラ 俺様魔王に溺愛されて幸せです(ジュエルブックス)
電子書籍 2018年6月1日配信開始 
皇帝陛下は花嫁狩り ~いきなり私が皇妃様!?~(LUNA文庫)

    第一章 置き去りにされた聖女は魔王の城にとらわれて?(8)      第二章 魔王城の意外と平和な日々(2) 
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Date:2019/02/08
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