迷宮金魚

□ いきなり後宮プリンセス!?溺甘殿下は蜜月計画中! □

第一章 身代り花嫁は後宮へ(4)

 
「元《げん》永翔《えいしょう》のやつ、とんでもないことをしてくれた。飼い犬に手を噛まれたとはこのことをいうのかもしれない」

「元永翔……って!」

 元永翔は、身分はさほど高くないものの、父が右腕と言ってもいいほどに重用している部下でもあり、将来を有望視されている武官でもある。

 父も多数いる部下達の中でひときわ目をかけていて、務めで遅くなった時などは、彼をこの屋敷に泊めさせたこともある。

 たしかに、永翔ならば玉英と顔を合わせる機会は多いだろうけれど、まさかそれが駆け落ちに通じるとは。

「先ほど、元家から使いが来た。元家でも、全力で二人を追うという。胡家でもそうするつもりだ。見つけ次第、玉英はこの手で叩き切る」

「た、叩き切るって……」

 父の決意は固いらしい。二人がしでかしたことの是非は今は置いておくとして、逃げ延びてくれることを祈らずにはいられなかった。

 部屋に残っていた客人の香りは、元家からの使いだったようだ。

(……いえ、こんなことを考えている場合では……)

 二人については、梅英にできることはもうない。父から叩き切る宣言があった以上、無事に逃げ延びることを密かに祈り続けるくらいしかできない。

 父は、うろたえる梅英の様子を見て、本当に何も知らないのだと判断したようだった。深々と息をつき、火鉢の方へ手を伸ばす。

「この度の縁談、皇太子殿下が玉英を見染めたというだけのことではないのだぞ。あの愚か者にも困ったものだ」

 見染めたというだけではないというのはどういうことだろう。火鉢で手を温めるふりをしながら、父はいらいらと続ける。

「父上の時代に、先帝陛下の命をお救いしたのはお前も知っているだろう」

「はい。おじい様が話してくださいました」

 父がいかめしい人間であるのに対し、亡くなった祖父は好々爺という言葉を体現したような人だった。

 そんな祖父も、若い頃は父のように戦場を駆け巡っていたらしい。「晶国《しょうこく》の悪鬼」などという二つ名がついていたなんていう話も聞いたことがあった。

 玉英や梅英を膝の上に載せ、各地の戦場で見聞きした珍しいものについて話を聞かせてくれたことを昨日のことのように覚えている。

「それともう一つ。先帝陛下と父上の間には、もう一つ密かな約束があったのだ。二人の子供を結婚させよう、と」

 けれど、それは叶わぬ約束となってしまった。

 胡家には息子しか生まれず、皇家には公主も誕生したけれど、年上過ぎて父とは年回りが合わなかったり、若いうちに亡くなったりで実現しなかったそうだ。その約束が、孫の代にまで持ち越されたということらしい。

「では、お異母姉様は先帝陛下のご意思まで……裏切ったことに……」

 梅英は、自分の顔がますます青ざめていくのを自覚した。玉英の駆け落ちは、梅英が思っていた以上に大事だった。

 胡家がお取り潰しになったとしても当然だ。だが、父は、ため息を深くついた。

「寛大にも、皇太子殿下からは二人の罪は問わぬ、と。そもそも、玉英を願ったというより、胡家の娘であればよかったらしい」

 皇太子からすれば先代の皇帝は祖父にあたる。祖父の願いを彼も叶えようとしたということだろう。


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    第一章 身代り花嫁は後宮へ(3)      第一章 身代り花嫁は後宮へ(5) 
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Date:2019/03/11
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