迷宮金魚

□ 悪役令嬢、コワモテ陛下にさらわれました!!! 愛され奥さまにジョブチェンジですかっ? □

第二章 悪役令嬢、隣国へ(5)

 
 背中に強く回された腕の力に、眩暈を起こすような気がした。

 どうすれば、いいのだろう。この状況、非常に気まずい……!

 押しつけられた広い胸板は、しっかりと筋肉がついている。腕も太くて、もう少し力を入れたら、背骨が折れてしまうのではないかという気がした。

「く、苦しい……」

 苦しいのは、呼吸ではない。もっと胸の奥深いところから込み上げてくる感情だ。その気持ちに、どう名前をつければいいのかさっぱりわからないが。

 細い声での訴えに、クラウディオは素早く反応した。

「すまない。苦しかったか。どこか痛むか」

「いえ……大丈夫、です。あの、クラウディオ様」

 言葉が、こんなにも思うようにならないのは初めての経験だった。

 こちらを見る彼のまなざしは、本当に申し訳なさそうにしゅんとしているから、今の自分の発言が過ちだったのだと正面から突き付けられているような気になってしまう。

「クラウディオ様、私……嫌では、ないんです。でも……慣れなくて……」

 嫌ではないとはどういうことだと思わず自分で突っ込むが、そう言うことしかできなかった。

 たしかに、嫌ではない。嫌ではないが、彼のことを怖いと思う気持ちも嘘ではない。

(昨日の今日で、おかしな話だけれど……)

 少なくとも、触れられて嫌な気はしなかった。自分でも矛盾していると思うし、他人にうまく説明できるとも思えない。

クラウディオを怒らせてしまってもしかなのない状況だ。

「慣れない?」

 けれど、クラウディオの示した反応は、フェリアの想像していたものとはまるで違っていた。

「そうか、慣れないか。こうやって、抱きしめられたことは?」

 今度は慎重に背中に腕が回される。そうしておいて、彼はフェリアを自分の方へと引きよせた。

「両親……とか、近しい親戚くらいで……」

 婚約していたとはいえ、ヴァレンティンとは手を握る以上のことはなかった。前世でも、男性には縁のない生活をしていたから、こんな風に抱きしめられるのは初めての経験だ。

「そうか、ではフェリア。よい夢を。ゆっくり休むといい」

 額にそっとキスされて、思わず背中をこわばらせてしまう。

 腕の力は強いのに、額に触れる唇は優しい。自分の体温より少しだけ彼の体温は高くて、その熱に心の奥がとかされていくような気がした。

「……お休みなさいませ、クラウディオ様」

 繰り返された、就寝の挨拶。

 それは、ぎこちないながらもフェリアの方から彼に向けて踏み出した一歩なのかもしれなかった。

 

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    第二章 悪役令嬢、隣国へ(4)      第二章 悪役令嬢、隣国へ(6) 
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Date:2019/10/12
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