迷宮金魚

□ 悪役令嬢、コワモテ陛下にさらわれました!!! 愛され奥さまにジョブチェンジですかっ? □

第二章 悪役令嬢、隣国へ(6)

 
 こうして、フロジェスタ王国への旅は、順調に進められた。

「今日は急ぐぞ。このあたりは治安が悪い。フェリアに万が一のことがあっては大変だから、盗賊が出るあたりは急いで抜けよう」

「大将はものすごく強いんで、安心してくれていいですよ、フェリア様」

「……二人が守ってくれるのなら、安心ですね」

 三日もたてば、フェリアもこのくらいの軽口は叩けるようになっていた。

 毎日三度の食事を三人でとっているのだから、距離が近くなるのも当然だ。

(……本当に、強そうなのよね)

 ゲームをプレイした時には、あまり好みではないなどと失礼なことを考えてクラウディオルートはスルーしてしまったけれど、毎日過ごしていれば、どんどん彼のことが好ましく思えてくる。

 身体は大きいし、いざとなれば大声を発することもあるが、外見から思っていたほど粗野なタイプではなかった。フェリアが想像していたような人間とはまるで違う。

 部下達には慕われているし、イザークとも仲が良い。

(……だけど、苦しくなるんだもの)

 往生際悪く、フェリアはそうつぶやいた。

 クラウディオがフェリアを大切に扱ってくれているのはわかっている。たぶん、こんなにも大切に扱われている女性はそうそういない。

 だけど。

 ここがゲームの世界で、クラウディオが攻略対象であるというその事実までは打ち消しようがない。

このまま、彼のことを好きになったら――何か、悪いことが起こりそうな気がしてならない。その予感は、打ち消そうとしても打ち消そうとしても、ちょっとしたきっかけで浮上してくるのだ。

「――そんな顔をするな。盗賊が出たら、俺が守ってやる」

 気がつけば、彼がこちらを見つめている。盗賊が出ることを恐れていたわけではなかったけれど、彼にはそう見えていたようだ。

真顔で言われ、ほんのりと耳のあたりが熱くなる。きっと、顔も赤くなっている。

「全て俺に任せておけばいい」

「はい、ありがとうございます――頼りに……していますね」

 そう言ったら、驚いたように少しだけ目を見開いたクラウディオは、すぐに顔をほころばせた。

 フェリアを見ている時だけ、彼の目がいつも以上に柔らかな光を帯びるのをフェリアは知っている。

 フェリアが馬車に乗り込むと、クラウディオはフェリアのすぐ側に馬を寄せてきた。

(……悪い人ではないのは、わかっているの)

 生真面目な表情をして、彼はまっすぐ前を見つめている。

 馬車の中から、フェリアはじっと彼を見ていた。

 フェリアをあの国から連れ出してくれた。悪評も気にしないと言ってくれた。

 むしろ、あの噂が、元の婚約者達が意図的に流したものであるということも理解してくれていて――。

(……どうしよう、私……)

 彼と出会って、まだたいした時間が流れたというわけではない。

 それなのに、彼の姿をこうやって見ていると、なんだか胸がどきどきしてくるのだ。

 なんで、こんなに胸がどきどきするのだろう。

その理由はわかっているけれど、明確な言葉ではまだ表現したくない。

 本当にそれでいいのかと、心の奥からフェリアを支配しようとする声は消えようとしないのだ。

(だって、私は悪役令嬢だもの)

 この世界はゲームとは違うと頭ではわかっている。だが、たった一年の間にフェリアが築き上げてきたものは失われてしまった。

 クラウディオの国にまで悪評が届いていて、国民が、フェリアを受け入れてくれない可能性だってある。

 彼の国に到着してからのことを、今心配したって始まらないのもわかってはいるけれど。

「――どうした? まだ、不安か」

 あまりにもじろじろとクラウディオを見つめていたのが、彼に気づかれてしまったかもしれない。

 彼に恋しているんじゃないかと今思い当たったばかりだったから、かっと顔が熱くなるのを自覚した。

 心臓が、ばくばくと言い始めて、彼の問いに答える余裕も完全に失われている。

「いえ、そうではなくて――あなたが」

 あなたが、と言いかけてそこで止まってしまった。この先、続く言葉を本当に口にしてしまっていいんだろうか。

「俺の顔に何かついているか?」

 けれど、その沈黙はクラウディオには違う意味にとられてしまったようだ。顔に手をやり、ついてもいない汚れを落とそうとしているみたいにそこをこする。

「い、いえいえいえいっ、違うんです。そうではなくて――その、う、馬に乗っている姿がとても――とても、その、素敵……だと……」

 言葉の後半が震えているのが自分でもわかる。とても素敵だからなんだと言うんだ。

 けれど、その言葉を聞いたクラウディオの方も、わずかに顔を赤くしている。

「そ、そうか――フェリアの目にはそう見えるか」

「はい、あの、でも、お気になさらないでください……!」

 彼の顔を見ていることができなくて、そのまま座席に身を投げ出してしまう。

(私、何口走ってるのよ……!)

 座席の上で、じたばたとした。

 たしかに、彼のことをとても素敵だと思ったのは事実だ。

 だが、その言葉をそのまま口にしなくてもよかったではないか。

 馬車の反対側にいたイザークが、そんなフェリアの様子を面白そうに見ているのに、フェリアはまったく気がついていなかった。



書籍版はこちらから
2019年1月25日発売
追放聖女はシンデレラ 俺様魔王に溺愛されて幸せです(ジュエルブックス)
電子書籍 2018年6月1日配信開始 
皇帝陛下は花嫁狩り ~いきなり私が皇妃様!?~(LUNA文庫)

    第二章 悪役令嬢、隣国へ(5)      第二章 悪役令嬢、隣国へ(7) 
既刊一覧

電子書籍



*    *    *

Information

Date:2019/10/13
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://goldfishlabyrinth.blog.fc2.com/tb.php/292-7d029df9
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)