迷宮金魚

□ 悪役令嬢、コワモテ陛下にさらわれました!!! 愛され奥さまにジョブチェンジですかっ? □

第二章 悪役令嬢、隣国へ(7)

 
 そして、出発から二週間後。フェリアは無事にフロジェスタ王国の都に到着した。

 道中、クラウディオとの仲はかなり進展したと思う。

(……本当は、そんなに怖い人じゃないのよね)

 もう少し地味なドレスを持ってくればよかったと思うけれど、トランクの中に入っていたのはやっぱり赤いドレスだけ。何度見たって清楚な色合いのものなんてない。

 髪は両サイドの髪を編みこみにしながら後頭部に持っていき、そこで一つにまとめている。残りの部分はそのまま流しているけれど、少しは可愛らしく見えるだろうか。

「どうした。今日はずいぶんとおとなしいのだな」

「あ、あなたのせいです……!」

 目の前に座っているクラウディオは悠々としているが、フェリアの方は落ち着かない。

 日を重ねるにつれて、彼のスキンシップは激しくなった気がする。

 朝、顔を合わせれば頬か額にキスが落とされる。

 歩く時には手を取られるか、自然に彼の手が腰に回っているかだ。就寝の挨拶の時には腕の中に囲い込まれるし、とにかく距離が近く、刺激が強い。

 おまけに、今日は馬には乗っておらずフェリアの乗っている馬車に一緒に乗り込んでいる。目のやり場に困ってしかたない。

 だが、彼がフェリアを気に入ってくれたところで、彼の国の人達が受け入れてくれる気になるかどうかは別問題だ。

(私が、悪者だって……この国の人達に伝わってないという保証はないものね)

 馬車の窓にもたれるようにして、ため息を一つ。

 朝から緊張しているのは、フロジェスタ王国の人達にフェリアが受け入れてもらえるかどうかが心配だからだ。今朝からずっと胃のあたりがしくしくとしている。

(この国の人達は、私を受け入れてくれる……?)

 素行が悪すぎて、王太子との婚約が解消されてしまったなんてこの国の人達にも伝わっていたら、どう対応したらいいものかわからない。

「フェリアは、小さなことを気にしすぎるのだな。この国の民は、小さなことなんて気にしないぞ」

「それは、クラウディオ様のお考えでしょう」

 もし、フロジェスタ王国の人達に『悪役令嬢は国に帰れ』なんて言われたら、もう立ち直れない気がする。

「――あ、あの。クラウディオ様。一ついいですか?」

 フェリアは首をかしげる。

 どうして、向かいの席にいたはずの彼が、いつの間にか隣に移動してきているのだろうか。少なくとも、フェリアは気がつかなかった。

 それだけではなくて、しっかりと腕の中に抱え込まれているのだから、身動きするのさえままならない。

「どうして、私はここにいるのでしょう……?」

 あまりにもぼうっとしすぎていたかもしれない。彼が、隣に移動してきているのに気づかないなんて。

「どうして、って俺がそうしたいからに決まっているだろう」

 それは、フェリアの意思は関係ないということなんだろうか。

 だが、彼はフェリアが本当に嫌がることはしないから、離れてくれと言えばきっと黙って元の位置に戻るのだろう。

 ――でも。

 こうやって、彼の腕の中にいるのは嫌な気分ではない。

「……あなたが、そうしたいのなら」

 結局、こうやって可愛くない反応を返すことしかできない。彼の腕の中にいるのは心地よいのだと、認めてしまえばきっと楽になれるのに。

以前ならこんな風に返すことはなかったから、きっと彼との距離が近づいているということなんだろう。

「大丈夫だ、俺がついている」

 そうやって、低く艶を帯びた声音でささやかれると、大丈夫なような気がしてくるのだからすごい。

 クラウディオの鼓動に耳を傾け、彼と同じリズムで呼吸しようとする。深い呼吸を繰り返しているうちに、心が穏やかになってくるのが自分でもわかる。

(……そうね、いざとなったら国に帰ればいいんだもの)

 フェリアはますます彼に身を寄せた。

 もし、この国の人達がフェリアを受け入れないというのなら、自分の国に帰ればいい。

 国に帰ったところで、行くところもないけれど――いざとなったら、実家を出ればいいのだ。

 きっと、フェリアにもできる仕事は何かしらあるだろう。

 彼の大きな手が、ゆっくりと背中を上下する。意図的に深い呼吸を繰り返して、落ち着きを取り戻そうとした。




書籍版はこちらから
2019年1月25日発売
追放聖女はシンデレラ 俺様魔王に溺愛されて幸せです(ジュエルブックス)
電子書籍 2018年6月1日配信開始 
皇帝陛下は花嫁狩り ~いきなり私が皇妃様!?~(LUNA文庫)

    第二章 悪役令嬢、隣国へ(6)      第二章 悪役令嬢、隣国へ(8) 
既刊一覧

電子書籍



*    *    *

Information

Date:2019/10/14
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://goldfishlabyrinth.blog.fc2.com/tb.php/293-1fa8c668
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)